令和3年度に開催された、社会保障審議会における会議について、その内容を紹介し、考察をまとめる。本会議では全世代型社会保障改革の概要・令和3年度厚生労働省予算案が主な議題となった。特に注目すべきは介護ロボットやICT活用の推進が強調された点であり、BCPにおいても当該分野の影響力が増すことが予想される。
はじめに
令和3年度に開催された、第29回社会保障審議会における会議について、その内容を紹介し、考察をまとめる。
1. 全世代型社会保障改革
2040年頃を展望した社会保障改革は新たな局面をむかえ、それと同時に課題も明らかになった。社会保障・税一体改革が2025年を念頭に置いた改革であったが、現状では2040年頃を展望した改革が必要である。 2025年以降、高齢者人口の伸びは緩やかになる一方で生産年齢人口の減少は加速していくことが予想されている。課題として一番大きいのは2040年には就業者数が1000万人以上縮減することになるという点である。医療・福祉のニーズが上がり続ける中でマンパワーをどう確保するかということが課題になる。
2. 令和3年度厚生労働省予算案
a. 新型コロナウイルス対策(12億円)
i. 介護・福祉サービス提供体制の継続支援
新型コロナウイルスの感染者等が発生した介護サービス事業所、障害福祉サービス事業所等が感染拡大防止対策の徹底等を通じて、必要なサービス等を継続して提供できるよう支援するとともに、都道府県において、緊急時に備え職員の応援体制等を構築する。
ii. 福祉施設における感染防止対策(2.9億円)
介護施設等における簡易陰圧装置・換気設備の設置や多床室の個室化等に必要な費用を補助する。
iii. 感染防止のための研修や業務継続計画(BCP)の策定等(2.9億円)
介護・福祉サービス事業所等の職員が感染症対策についての相談を受けられ る窓口の設置、感染症対策の専門家による実地研修やセミナー、業務継続計画(BCP)の作成支援、職員のメンタルヘルス支援等を行う。
iv. ICT・ロボット等の導入
感染拡大の防止・生産性の向上・介護等業務の負担軽減に向けた取組を促進し、 安全・安心なサービスを提供できるよう、介護・福祉サービス事業所等における ICT・ロボット等の導入を支援する。
b. 介護保険制度による介護サービスの確保
i. 介護サービスの確保 (3兆393億円)
地域包括ケアシステムの実現に向け、介護を必要とする高齢者の増加に伴い、在宅サービス、施設サービス等の増加に必要な経費を確保する。
介護報酬の改定に関して、介護職員の人材確保・処遇改善にも配慮しつつ、物価動向による物件費への影響など介護事業者の経営を巡る状況や感染症等への対応力強化等を踏まえ、改定率は全体で+0.70%とする。
※ うち、新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価を+0.05%(令和3年9月末までの間)とする。
ii. 地域支援事業の推進 (1,942億円)
地域包括ケアシステムの実現に向けて、高齢者の社会参加・介護予防に向けた取組、配食・見守り等の生活支援体制の整備、在宅生活を支える医療と介護の連携及び認知症の人への支援の仕組みづくり等を一体的に推進しながら、就労的活動の普及や認知症施策の充実を図りつつ、高齢者本人や家族を地域で支えていく体制を構築する。
iii. 介護の受け皿整備、介護人材の確保(1,093億円)
各都道府県に設置された地域医療介護総合確保基金を活用し、介護施設等の整備を進めるほか、介護人材の確保に向けて必要な事業を支援する。
1. 介護施設等の整備に関する事業
地域密着型特別養護老人ホーム等の地域密着型サービス施設の整備費や、介護施設(広域型を含む)の開設準備経費、特養多床室のプライバシー保護のための改修等に必要な経費の助成を行う。また、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、介護施設等における簡易陰圧装置の設置や多床室の個室化等に必要な経費の助成を行う。
2. 総合的・計画的な介護人材確保の推進
地域の実情に応じた総合的・計画的な介護人材確保対策を推進するため、介護人材の「参入促進」、「労働環境・処遇の改善」、「資質の向上」を図るための多様な取組を支援する。
iv. 介護施設等における防災・減災対策の推進(12億円)
介護施設等における防災・減災対策を推進するため、地域密着型サービス施設等へのスプリンクラー設備等の整備、耐震化改修・大規模修繕等や、介護施設(広域型を含む)の非常用自家発電設備及び給水設備の整備、水害対策に伴う改修等、倒壊の危険性のあるブロック塀等の改修に必要な経費について支援を行う。また、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、介護施設等における換気設備の設置に必要な経費について支援を行う。
v. 介護分野における生産性向上の推進 (8.4億円)
1. 介護ロボット開発等加速化事業
介護現場の生産性向上や感染症対策を推進するため、①ニーズ側・シーズ側の一元的な相談窓口の設置、②開発実証のアドバイス等を行うリビングラボのネットワークの構築、③介護現場における大規模実証フィールドの整備により、介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームを構築し、介護ロボット等の開発・普及の加速化を図る。
2. ICT を活用した介護情報連携推進事業
ICT を活用した情報連携をさらに推進するため、地域における多職種・多機関参加型の情報共有の実証検証や事例報告会を開催するほか、医療機関と介護事業所間の情報連携のための情報基盤に関する調査研究等を行う。
考察
今回の社会保障審議会ではマンパワー確保の重要性が全面に押し出されたが、それと同時に注目すべきは、介護ロボットやICT活用の推進が強調された点である。特にコロナ禍もあいまって「いかに少ない労力で介護現場の課題を解決できるか」ということの重要性が増す中で、BCPにおいてもロボット・ICT関連の対策を講じる必要が生じることが予想される。今後、当該分野の動向に注目したい。また、介護施設などの防災・減災対策の推進について各種施設への修繕計画への取り組みが強化されつつあることも付記したい。社会保障の趣旨にかんがみこれらの施設への対応は今後も継続的に強化されるのではなかろうか。施設管理にかかわる立場としてより注視したい。
参考
厚生労働省「第29回社会保障審議会 議事録」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17174.html
厚生労働省「第29回社会保障審議会 資料2」
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000727508.pdf
厚生労働省「第29回社会保障審議会 予算案の主要事項」
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000727513.pdf