火災による煙を建物外に排出するために設けられる排煙窓。ただの窓だと意にも介さない人も多いと思われるが、実際は重要な役割を担っている。その機能と設置箇所から放置されがちな設備であり、いざというときに動かない排煙窓は、実は意外と多く存在している。設備の維持管理不適は、有事の際の被害を拡大し、建物所有者等の責任問題となってしまう。そうならないために、建物所有者等は排煙窓に関する最低限の知識を有し、設備の適切な維持管理を助言できる管理業者の選定を行うべきであろう。
排煙窓とは
排煙窓とは、火災により発生した煙を効率よく建物外部に排出することを目的とした、特殊な窓である。排煙窓は、建築基準法を設置根拠とする排煙設備のうちの一つであるが、排煙設備は大きく自然排煙設備と機械排煙設備に分かれており、排煙窓は自然排煙設備に該当する。
機械式の排煙設備や排煙設備の制度に関する情報は、以下の記事を参照していただきたい。
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排煙設備概要
いずれにせよ、建物の所有者や管理責任者は、排煙窓が設置されている場合には、その維持管理等を適法に行う必要があることから、ただの窓と思って油断してはならない。
手動開放装置について
これまでの説明で、排煙窓が煙を屋外に排出する開口部であるということは理解していただけたと思う。火災によって発生した熱い煙は部屋の上方へ移動する。それを排出するために、排煙窓は部屋の高い位置に設けられている。しかし、部屋の上部に設けられた窓には手は届かないので、それを開放するための装置が必要になる。それが手動開放装置(オペレーター)である。
これを操作することにより、手の届かない上部の窓を開放することができる。オペレーターには人力でワイヤーを動かすハンドル式のものから、ワンタッチで開く電動式のものまで種類は多様である。
手動開放装置の機能及び構造などについては、「建築基準法施行令第 126 条の 3」で規定されている。同規定から一部を抜粋すると以下のようになる。
●操作位置(オペレーターの設置位置)
・壁に設ける場合:床面から80cm以上1.5m
・吊り下げて設ける場合:床面からおおむね1.8m
●表示(オペレーター本体に記載しなければならない内容)
・見やすい方法でその使用方法を表示すること
すなわち、排煙窓を操作する装置であるオペレーターは極端に低い場所や高い場所には設置されておらず、その使用方法もオペレーター本体に記載されている。オペレーターは稼働させる排煙窓付近に配置されており、発見するのは難しくない。また、操作方法も表示されていることから、落ち着いていれば誰でも操作することができる。
点検時によくある異常
当方が排煙窓の点検をする際に時々見られる異常として「窓が固着して開かない」というものがある。この窓の固着は窓の開閉をしばらく行っていないことにより発生する症状である。当然開放できない排煙窓は設備として維持管理不良であり、極端に言えば法令違反である。
開けることが難しくないとは言え、火災など頻繁に起こるものではないから、排煙窓を実際に操作したことのある人は稀であろう。また、非常時に操作する装置は日常的にはあまり触りたくないと人は思うものである。自分が誤って操作したり、うっかり接触してしまうことで、故障や非常ベルの鳴動により周囲の人に迷惑を与えてしまうかもしれない、そのように考える人が多数ではなかろうか。現に、私も設備点検の仕事をする前まではそうであった。しかし、そのような理由から、排煙窓がしばらく開閉されず放置されていると、塵や湿気の影響で窓が固着し、オペレーターを使用しても窓が開かない、ということになってしまうのである。
維持管理不良として、点検結果をただ単に不適にして終わらせるだけだと何も改善しない。そのため当方は建物関係者の方に、時々換気も兼ねて窓を開放するように勧めている。上述のとおり、固着は機械的な故障ではないので、時々使用するだけでこの症状は防げる。当然のことながら、点検時に開くか開かないかよりも、有事の際に使えるか使えないかの方が圧倒的に大事であるため、このように、窓を固着しないように気を使うことも建物所有者等の義務の一つであると言えよう。
ちなみに、固着してしまった場合の解消方法は、内側から棒等で押すだけである。体育館のような天井の高い位置に固着した排煙窓がある場合、当方では感知器試験用の伸縮棒を限界まで伸ばして対応するが、長い棒をお持ちでない方には難しいかもしれない。排煙窓が開かない原因は固着以外にも、壁の中でワイヤーが切れてしまっている等の可能性もあるにはあるが、当方はそのような故障をこれまで見たことはなく、実際に開かない窓の原因の99%は固着によるものだと思う。建物管理者が自己点検の中でこのような窓の固着を発見した場合は、焦らず何らかの棒でまず押して見ることを試していただきたい。もしそれでも動かないとなれば、ワイヤーロープや滑車の不良等も考えられるので、メーカーもしくは防排煙設備に関し知見を有す施工業者等に早急に連絡する必要があるだろう。
参考
建築資料研究社編『建築基準法関係法令集』建築資料研究社