普段よく見かける消毒用アルコールは可燃性の液体であり、消防法で規制される「危険物」に該当する可能性がある。消毒用アルコールを日頃から大量に使い、また備蓄している企業は、その取扱について細心の注意を払う必要がある。特に医療機関や高齢者福祉施設は性質上大量の備蓄を抱えている可能性があるため、施設の責任者は現在の貯蔵量を確認するとともに、取り扱いには細心の注意を払う必要がある。
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実は危険な消毒用アルコール
新型コロナウイルスのパンデミックにより、街の至る所で手指消毒用アルコールを目にするようになっている。人の出入りの多い施設には必ずと言っていいほど設置されており、新型コロナウイルスが流行する限り暫くの間姿を消すことはないであろう。しかし、アルコールは可燃性の液体であるため、実は火災を引き起こす可能性がある危険物質である。アルコールの濃度によっては消防法上で厳格に規制されうる「危険物」として扱われるべきものであり、本来、持ち込みや設置を軽々しく行ってはならない物である。コロナのパンデミック下の日本では、われわれは危険物に囲まれて生活している状況なのである。
消防法上の危険物に該当する消毒用アルコールとは
消毒用アルコールは、アルコール(エタノール)の濃度が60%以上になると、消防法上の危険物として扱われる。危険物と判断されると、取り扱う量によって貯蔵庫での保管や危険物取扱者の資格を持つ人物に管理監督させなければならないなどの義務が生じる。この規定は消防法、危険物の規制に関する政令及び各自治体の火災予防条例等により、具体的な取り扱い規制と、その量が定められている。
あなたが使用する消毒用アルコールが危険物かどうかを判別するには、製品の容器を見るのが最も簡単である。危険物に該当する消毒用アルコールであれば、容器のどこかに「危険物第4類アルコール類」の表示がされているはずだ。しかし、当方で確認したところ、海外製のアルコールで同表示がされていない製品もあったため、表示がなかったからといって安心はできない。メーカーもしくは輸入代理店に確認する必要が生じるであろう。もし、危険物に該当してしてしまったら、管轄消防署への届出や保管方法に関する義務が発生するため、使用及び貯蔵する量には注意しなければならない。なお、参考までに東京都内での扱いについては以下のとおりである。
特に注意をしなければならない施設
上の表を見てもらえればわかるとおり、80L以上でなければ、届出や保管に厳格な規制を受けることはない。アルコールの供給体制が落ち着いた2021年1月現在では、一般的に80L以上のアルコールを備蓄する企業はそれほど多くないであろう。しかし、新型コロナに対し特に注意をする必要があり、日常的に大量のアルコールを使用するようになった施設は、あらたに上記規制に引っかかる可能性がある。具体的には、医療機関や高齢者福祉施設である。このような施設は、クラスター感染が起こった際のダメージが大きいため、感染防止に神経を尖らせ、アルコールを大量に納入しているかもしれない。同施設の管理者は、保管している数量を確認したほうが良いであろう。法令違反だけならまだしも、災害が発生し、備蓄しているアルコールに引火すれば大惨事になってしまう。
もしもの事態を回避するため、具体的な対策は以下のとおり。備蓄量に限らず、消毒用アルコールの取り扱いに際して特に注意すべき3点を記す。
①火気の近くでは使用しない。
繰り返しになるがアルコールは可燃性液体である。また、噴霧タイプの製品も多く、可燃性液体は噴霧するとより蒸発しやすくなる。すなわち可燃性蒸気が拡散することになるため、引火の危険が極めて大きい。衛生面に気を使うあまり、調理場に消毒用アルコールを設置してしまうと、ガスコンロの火に引火するおそれがあるため、特に注意が必要である。
② 設置する場所では換気を行うこと。
消毒用アルコールの使用時並びに詰替時には上述のとおり可燃性気体が発生しやすい。蒸発した消毒用アルコールの蒸気は空気より重く、低所に停滞する性質をもつため、換気の悪い場所に設置すると可燃性蒸気が滞留するおそれがあるため、こまめな換気を行うこと。
③ 直射日光に当てる、高温になる場所に置かない。
消毒用アルコールは熱することで可燃性蒸気が発生しやすくなる。設置場所並びに保管場所は日陰の涼しい場所かつ火気や電気火花のない場所にすること。
日常品としてすっかり馴染んだ消毒用アルコールであるが、本来の性質は「危険物」である。災害はいつ起こるかわからないため、有事の際に被害を拡大させないような防災マニュアルを作成し、その中に消毒用アルコールに関する取り扱いについても定めるのも効果的であろう。