重要性を増す火災対策に関する事項を定める消防法とその改正内容について概観し、介護事業者にとっての留意点(防火管理・消防用設備の検定・補助金、助成金)をまとめる。 消防法は介護事業者にとって各種申請・BCPに密接に影響する法律なので、今後も消防法の改正、また消防法に関連する議論の動向等を追っていきたい。
目次
はじめに
昨年令和3年12月に大阪の心療内科クリニックでの火災事件など、多くの人命が犠牲となる火災事件が後を絶たない。介護現場にとってももちろん、火災は死活問題である。特にBCPの重要性が増す状況下では、火災対策はどこの事業者にとっても喫緊の課題である。今回は、火災対策に関する事項を定める消防法とその改正内容について概観し、介護事業者にとっての留意点をまとめる。
消防法とは
消防法とは、「火災を予防し、警戒し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もって安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資すること」ことを目的として(消防法第1条)、消防機関の活動や権限、消防設備等の設置や義務、規制などについて、基本的な事項を定める法律である。
消防法による委任により、政令(消防法施行令、危険物の危険物の規制に関する政令など)・省令(消防法施行規則、危険物の規制に関する規則など)や各地方自治体が制定する火災予防条例などにおいても、消防に関する事項について定められている。
消防法の改正
平成24年5月13日、広島県福山市のホテル火災(死者7名、負傷者3名)、平成25年2月8日、長崎市の認知症高齢者グループホーム火災(死者5名、負傷者7名)、平成25年10月11日、福岡市の診療所火災(死者10名、負傷者5名)といった介護施設での火災が多発したことを契機として、平成27年に消防法施行令の一部が改正された。 この改正により、介護施設について以下のような基準の厳格化が行われた。
スプリンクラー設備の設置基準の見直し
介助がなければ避難できない者(※1)が利用者の 8 割を超えない場合以外は、原則として、全ての介護施設が延べ面積に関わらずスプリンクラー設備を設置することが義務付けられた。
※1 乳幼児または障害者の程度を判定する調査項目において、避難に関する項目で「介助が必要」と判断される者
自動火災報知設備の設置基準の見直し
原則として、就寝施設のある全ての介護施設が延べ面積に関わらず自動火災報知設備を設置することが義務付けられた。
消防機関へ通報する火災報知設備の連動義務化
消防機関へ通報する火災報知設備は、自動火災報知設備の作動と連動して起動することが義務付けられた(消防法施行令別表表第 1(6)項ロに掲げる者が対象)。
消防機関の検査を受けなければならない防火対象物等の見直し
消防機関の検査を受けなければならない防火対象物として、延べ面積が300㎡未満のもので宿泊施設を有する者を加えた。
介護施設と消防法
以上のような改正を経て消防施設の設置基準の厳格化が図られたが、介護施設との関連においては以下の点に留意が必要である。
1. 防火管理
防火管理とは、多数の者が利用する建物などの「火災等による被害」を防止するため、防火管理に係る消防計画を作成することである。以下の条件を満たす介護事業者は、この防火管理を行う防火管理者を選任しなければならない。
- 老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老 人ホーム、有料老人ホーム、グループホームな ど、火災発生時において自力で避難することが困難な者が入所する施設で、 収容人数が10人以上のもの
- 上記に当てはまらない施設で、収容人数が30人以上のもの
2. 消防用設備の検定
消防用設備については、総務大臣が承認した形状等と同一であるかを判断する個別検定に合格したものでないと設置できない(消防法第21条の2~4)。この検定の対象には以下が含まれる。
- 消火器
- 消火器用消火薬剤(二酸化炭素を除く。)
- 泡消火薬剤(総務省令で定めるものを除く。)
- 消防用ホース
- 消防用ホースに使用する差込式又はねじ式の結合金具及び消防用吸管に使用するねじ式の結合金具
- 火災警報設備の感知器又は発信機
- 閉鎖型スプリンクラーヘッド
- スプリンクラー設備に使用する流水検知装置
- スプリンクラー設備に使用する一斉開放弁
- 金属製避難はしご
- 緩降機
3. 補助金、助成金
スプリンクラーなどの消防設備を設置するために、国や地方自治体の各種補助金・助成金を利用できる場合がある。たとえば、2010年には厚生労働省主導で介護基盤緊急整備等臨時特例交付金が運営され各自治体において補助金が交付された。今後、消防法改正などのタイミングで補助金・助成金が利用できるかもしれない。 もちろん利用するために諸般の手続きを経なければいけないので、常に情報を追っておきたい。
おわりに
平成27年の改正をはじめ、年々厳格化する傾向が窺える消防法だが、火災事件・事故が相次ぐ中その傾向は今後も続くと見て差し支えないだろう。消防法は介護事業者にとって各種申請・BCPに密接に影響する法律なので、今後も消防法の改正、また消防法に関連する議論の動向等を追っていきたい。
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