今回は、水道配管を利用したスプリンクラー設備をご紹介する。この設備は、高価な設備を導入し難い小規規模施設のオーナーの救世主といえる。先だって、そもそもスプリンクラー設備とはどういう施設・場所に、どういった趣旨から設置が義務付けられているのかに触れ、スプリンクラー設備の特徴や散水のメカニズム、水道配管を利用したスプリンクラーが登場してきた背景やそのメリットを解説していく。
はじめに
スプリンクラー設備の設置基準は、消防法施行令第12条第1項に規定されている。施設では、主に劇場等の人が多く集まる施設、病院・診療所、社会福祉施設、大きな倉庫や工場、高さ31メートルを超える大型施設等で、場所では、地下を含む窓が無いフロア、建物の11階以上に義務付けられている。つまり、ひとたび火災が発生した場合に消火が困難、経済的な被害が甚大、多くの人命に危険が生じる可能性が高い施設に必要とされている。
スプリンクラーのポイントは無人でも火災を自動で早期発見し、早期消火が可能な点である。初期消火を自動で行うことでは最も優れた設備といえる。なおかつ、中期以降の消火にも有効なことからとても頼りになる消火設備である。だからこそ大人数・大規模な施設以外でもスプリンクラーが設置されていれば、その施設のオーナーや利用者の安全はより高まるはずである。ただし通常のスプリンクラーは消火水槽(貯水槽)を地下に設けるなど設備が大掛かりで、相応のコストも掛かってしまう。
一方、水道連結型スプリンクラー設備なら小規模施設でも設置でき、通常のスプリンクラーに比べて設置工事が簡便でコストも抑えられる。
スプリンクラー設備とは
自動で火災を探知して主に天井から大量に散水し、その散水が出火した場所をピンポイントで狙える点がスプリンクラーの最大の特徴かつ利点である。
一般的に広く用いられるのは湿式のスプリンクラー設備であり、消火水槽から末端のスプリンクラーヘッド(火元へ放水を行う自動消防設備で、以下「ヘッド」ともいう)に至る配管は常に水で満たされ、かつ加圧されている。水はヘッドの弁によって堰(せ)き止められ、火災が発生し、一定の温度に達するとヘッド内部の金属(可溶片)が溶け(72℃~96℃)、ヘッドを形成する分解部が落下、堰が切れて一気に放水を始める。配管内の圧力が下がり、設定値を下まわればポンプが起動する。ポンプが消火水槽から水を汲み上げてヘッドに送水し、大量に散水する。
スプリンクラーはひとたび作動すると、供給する水が尽きるか制御弁を閉じてポンプを停止させるまで散水し続ける。消火活動と関係なく水を放出してしまうことを水損という。この水損を最小限にするべくスプリンクラーの制御弁の位置を把握しておき、いち早く送水を停止できるよう備えておくことが重要となる。
事故を受け登場した“水道水を使用した”スプリンクラーの特徴
消防設備の設置義務の範囲は、火災による被害の事実が人々の耳目を集めれば集めるほど、消防法が改正されて拡大していく傾向がある。
以下の火災は、いずれもスプリンクラー設備がない施設で起きたものである。
平成18年1月、認知症高齢者のグループホームの火災で施設が全焼、死者7名を出す惨事となった。これを契機に平成19年6月に消防法施行令等が一部改正、火災発生時に「自力で非難することが著しく困難な者」が入居する社会福祉施設等で延べ面積275㎡以上1000㎡未満のもの、いわゆる「小規模社会福祉施設」等にも、平成21年4月からスプリンクラー設備の設置が義務付け(法令の施行)られた。とはいえ、対象施設のオーナーとしては新たにスプリンクラーを設置するなど“寝耳に水”で、高額な費用を要する設備の設置は現実的に困難な例も多々あった。そこで設置者のコスト負担軽減と施設の安全性を実質的に高めるため、スプリンクラー設備の新基準が策定された。ここで登場したのが、配管が水道の用に供する水管に連結された「特定施設水道連結型スプリンクラー設備」で、1000㎡未満の小規模社会福祉施設であれば設置が許された(消防法施行令第12条第2項第3号の2)。
平成21年と22年の3月にも小規模社会福祉施設での火災により、それぞれ死者10名、7名を出したことで、平成25年12月に法改正を実施、275㎡未満の社会福祉施設(介助がなければ避難できない者を8割以上入所)でも平成27年4月からスプリンクラーの設置が義務化された。この場合にも「特定施設水道連結型スプリンクラー設備」で対応できる。
医療機関においても、平成25年10月発生の診療所での火災にて10名の死者を出したことを受け、平成26年10月政省令が公布され、スプリンクラー設備の設置を義務とする施設の範囲が拡大された。続けて平成28年4月の消防法施行令等の改正では、「非難のために患者の介助が必要な診療科目を要する病院及び有床診療所」において、全ての施設でスプリンクラー設備の設置が義務化された(既存の施設での適用は令和7年7月から)。この場合にも施設規模が1000㎡未満であれば「特定施設水道連結型スプリンクラー設備」で対応可能となる。
この小規模施設の救世主といえる水道連結型スプリンクラー設備は、初期火災に迅速に対応でき、施設利用者が安全な場所に避難できるように作られている。
特徴は、水道連結時における圧力損失の高さを克服するべく特有のサーキット配管工法になっている。そのため停滞水の防止と配管の圧力損失を低減させることができる。
天井に設置されたスプリンクラーヘッドは約68℃で散水を始める。
ひとつのヘッドの有効散水半径は2.6m(超高感度型)で、有効防護範囲能力は13㎡である。 1分あたりの放水量は約15Lまたは、30Lである。
https://www.yamatoprotec.co.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/04-031.pdfhttps://www.yamatoprotec.co.jp/products/syokasetsubi/sprinkler3/
水道直結式スプリンクラーのメリット
設備の設置コストが通常のスプリンクラーに比べて格段に安い。またトイレなど日常生活に使用されている水道配管を利用するため配管内に停滞水が発生しないので衛生的である。
高性能な散水能力があり、水道直結式で停電時にも確実に作動し、機能を保つことができる。
性能の良い水道直結式スプリンクラー設備は、設備火災による財貨や資産などの損害を最小限に抑え、かつ従来型より清潔である。
まとめ
ある消防・消火の専門家は、「スプリンクラーが適切に作動したおかげで火災とならず小火(ぼや)ですんだ事例はとても多い」と語った。現在はまだ大規模施設でしか見られないスプリンクラーだが、今後の更なる高齢化に伴い、水道水を利用したスプリンクラーに出会う機会が増えそうである。
参考
ヤマトプロテック株式会社「特定施設水道連結型スプリンクラー設備」
https://www.yamatoprotec.co.jp/products/syokasetsubi/sprinkler3/
指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号)特定施設入居者生活介護事業所を開設するための人員基準
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411M50000100037https://www.nippku.com/column/tokutei_shisetsu/ts_staff/
消防法施行令(昭和三十六年政令第三十七号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336CO0000000037_20220401_504CO0000000134https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336CO0000000037_20220401_504CO0000000134&keyword=%E6%B6%88%E9%98%B2%E6%B3%95%E6%96%BD%E8%A1%8C%E4%BB%A4