建物の用途によって変わる消防設備の設置基準。もし、何らかの理由により屋内消火栓を新たに設置しなければならなくなった場合、パッケージ型消火設備で代替するという方法がある。建物内に配管を這わせる大工事よりも、もっと簡単に消火設備を設置することができるだろう。しかし、あくまで代替の手段であり、建物オーナーは建物の増改築や用途変更を行う場合は、消防設備業者か管轄の消防署に相談するべきである。後々、社会的責任を問われることや、意図しない出費を減らすことができるかもしれない。
パッケージ型消火設備とは
パッケージ型消火設備とは、屋内消火栓設備の代替として設置することができる消防設備の一種である。いわば簡易版消火設備とでもいうべきもので、設置が比較的容易であり、コストが抑えられるというメリットが存在する。パッケージ型というのは、下写真のように、格納箱に消火薬剤やホース一式が揃っている製品のことで、通常、水源や配管等を別途用意する必要がある屋内消火栓設備を一つの箱にまとめていることから、パッケージ型と呼ばれている。
この記事を読み、さらにパッケージ型消火設備の設置を検討している方は、おそらく、建物の増改築や用途変更により、当該建物に屋内消火栓が必要となることを、建築関係者もしくは消防行政に指摘された方が大半であろう。まさにそのような方向けにパッケージ型消火設備は用意されているのである。
消防法では、建物の規模と用途によって設置しなければならない消防設備がそれぞれ何であるのかを細かく規定している。一概には言えないが、人が多く集まる大きな建物であればあるほど、設置を義務付けられる消防設備の種類は多岐にわたるのが一般的である。その消防設備の中で、屋内消火栓設備は、特定の設置条件さえ満たせば、パッケージ型で代用できる、という規定が別途存在しているのである。
屋内消火栓が何かわからない人のために、屋内消火栓とは何かについて簡潔に述べると、ホースとノズル(放出口のこと)がセットになった消防用設備で、火事の際にそれを使用して水を撒くことができる代物である。箱の中身は見たことがなくても、外見だけならどこかで見たことがある人が殆どであるに違いない。
上の画像を見てもらえればわかるとおり、屋内消火栓設備を設置するには、水源に加え、加圧送水装置(ポンプ)を設け、配管を建物中に巡らし、定点的に置かれたホースから水を出せるようにしなければならない。これだけで屋内消火栓設備を設置するには大工事が必要だというのが容易に想像できよう。パッケージ型屋内消火設備は、これらの工程を排除し、格納箱を設置し表示灯に繋がる電線だけを確保すれば良しとする製品がほとんどでである。パッケージ型消火設備は安くはないが、少数を設置するだけなら、工事に比べればコストパフォーマンスは圧倒的に高いと言える。一方で、豊富な水源ではなく、少量の消火薬剤で代替していることから、危険物が大量に貯蔵してある施設や、そもそも大きな建物では心もとないため、設置が認められていない。
そして、パッケージ型屋内消火栓には I 型と II 型の2種類が存在する。それぞれの違いは大したものではない。簡単に言えば I 型の方が大型で消火能力が高く、 II 型の方が小さめとなっている。建物によっては 、I 型は設置できるが II 型は設置できない、といったことが起きてくるため、設置を検討する建物が本当にパッケージ型消火設備が設置できるのかを消防設備業者や消防行政とよく相談した上で設置する必要があるだろう。
代替設置するためには
さて、パッケージ型消火設備の設置要件については、平成16年消防庁告示第12号『パッケージ型消火設備の設置及び維持に関する技術上の基準を定める告示』について定められている。同基準を要約し、パッケージ型消火設備を設置できる場合は以下のとおりである。
① 設置を検討する建物が、工場、作業場、映画スタジオ、テレビスタジオ、車庫、駐車場、飛行機の格納庫のいずれにも該当しない
② 地階、無窓階又は火災のとき煙が著しく充満するおそれのある場所ではない
③ 指定可燃物を貯蔵していない
無窓階とは、単に「窓がない階」というわけではなく、「避難上又は消火活動上有効な開口部を有しない階」という意味であり、詳細は別記事に譲るが、ここでは、出入り口や窓がごく少ない階、程度の認識で構わない。
指定可燃物とは、引火性液体や固体のような火災時に延焼を拡大させる危険性を持つものである。貯蔵する量については、指定数量という、物質独自に設定された数値等と比較する必要があるため、ここでは割愛するが、危険物、とくにガソリンや灯油のような可燃性液体を多く貯蔵する建物には設置できないケースが多い。
以上3点の条件に当てはまらない上で、以下の建物要件をクリアすれば、パッケージ型消火設備が設置可能となる。
① I 型消火設備が設置できる場合
・耐火建物で、地上6階建て以下、延べ面積が3,000㎡以下のもの
・耐火建築物以外で、地上3階建て以下、延べ面積が2,000㎡以下のもの
② II 型消火設備が設置できる場合
・耐火建物で、地上4階建て以下、延べ面積が1,500㎡以下のもの
・耐火建築物以外で、地上2階建て以下、延べ面積が1,000㎡以下のもの
いかがであろうか。これらの条件を満たせばパッケージ型消火設備の設置は可能である。ただ、実際に設置する際には、有効な消火範囲を確保するため、設置する個数や設置場所等が建物個別に計算される形となる。パッケージ型消火設備一つ一つの単価は高いため、条件をクリアしたからと言って、屋内消火栓がパッケージ型に取って代わられることではなく、あくまで屋内消火栓設備の工事が難しい場合の代替手段と捉えるべきであろう。
最後に
はじめに述べたように、パッケージ型消火設備の恩恵を受けるのは、増改築や用途変更により、屋内消火栓を置く必要が生まれた建物所有者がほとんどである。当方が受ける相談で多いのは、消防署の立入検査で指摘を受けて、というものである。悲しいかな消防設備は建物オーナーが積極的に導入したがるものではなく、むしろ知らない、考えたくもないという場合が常なので、あとになって問題が露見することが多いのである。当方がそのような相談を受けた場合、パッケージ型消火設備が設置可能であり、かつその個数が少ないのであれば、導入することをお勧めしている。それは防火管理の分野の話になるが、消防の指摘を無視し、万が一火災等で被害を拡大させた場合、責任者が逮捕されるケースがあるからである。かなり気づきにくいところではあるが、建物の増改築をする際は消防とも密接に係る部分となるので、当方でなくとも、消防設備の業者や管轄の消防署に相談するようにしていただきたい。後々になって、予想もしていなかった出費が必要になる、という事態を避けることができるだろう。
参考
消防庁「パッケージ型消火設備の設置及び維持に関する技術上の基準を定める件」
https://www.fdma.go.jp/laws/kokuji/assets/h16_kokuji12.pdf
ホーチキ株式会社「消防設備設置基準表」
https://www.hochiki.co.jp/pdf/support/business/kaisei/h_shoubo_setti_kijun.pdf