今回は、まず民泊の開業には許可・届出等が必要な事や無許可民泊の過去の事例をご紹介し、トラブルへの備えと事前の収益計画を立てておかなければ収益化が困難な点に触れ、最後に、民泊を廃業する際の届出の必要性などについて解説する。
はじめに
これまでの民泊の記事では、法令を中心とした制度的なことに触れてきた。この記事では、民泊をこれから始めようと考えていたり、民泊事業に興味・関心を持たれている方々が抱きがちな民泊運営にまつわる間違いを想定し、知っておくべき事項を明らかにしている。特に収益計算は必須の作業なので幾つかのパターンで算出しておきたい。
民泊は個人の判断で始められる
民泊は、自宅の使っていない空き室だったり、相続して住んでいない物件で簡単に始められるイメージがある。特に自宅民泊の場合には、環境的に開業が簡単な人もいるだろう。とはいえ、「思い立ったが吉日」とばかりに今日広告を打ち、今晩から宿泊客の予約を受けれられるわけではない。これまでの民泊関係の記事でもご紹介したように、開業には都道府県知事等への許可(旅館業法)や認定(特区民泊)、または届出(民泊新法)が必要となる。
しかし一部では、届出等を行わずに民泊事業を始める法人・個人が存在する。
京都市の賃貸マンションにて2015年の7月から10月までの間、空室の36室に海外からの団体の観光客を中心に353人を無許可の民泊に宿泊させた疑いがもたれた。これは全44室の賃貸マンションで、その年の1月に完成し入居者の募集を始めたものの、計画通りに部屋が埋まらず、悩んだ末の空室対策だったとみられている。
その他、京都市の業者が2016年から2年半に渡り、戸建ての賃貸住宅にて無許可で民泊運営をし、インバウンド客を相手に1泊15,000円で営業した。その結果、238組に利用され、売上は1290万円にものぼったという。この違法業者の社長は、他の施設もやっているから大丈夫、許可を取るのが面倒、といった理由で虚偽の許可番号を民泊仲介サイトに載せていた。
この無許可民泊につき、2017年の大阪市の行政指導の事例では、722件が営業中止を受けた。その際、大阪市で許可を得て民泊を運営している施設はたった250件しかなったというから驚きである。
そもそも違法の民泊営業がなぜバレるのだろうか…。
理由の一つは近隣住民からの通報である。その内容は、話し声がうるさい、ゴミの分別がされていない、などである。しかしこれらを民泊業者が防ぎ切るのは不可能だろう。「家主不在型」施設では尚更である。そして、インバウンドのゲストに「ここ無許可だから静かにして!」とは言えない。
よって許可等は必須である。民泊3法のそれぞれの制度にのっとって、許可申請や届出等をするものの、その届出等が失敗しないように以下の点を事前に確認しておく必要がある。まずは、欠陥事由である。
①事業者としての欠陥事由にあたらないか
②民泊関連条例や当該自治体(生活衛生課等)への相談・確認
③民泊事業を借りた物件でする際のオーナが承諾してくれるか
④マンションで運営する場合は、管理規約や管理組合への相談
⑤管轄消防署から「消防法令適合通知書」を得られるかどうか
⑥近隣住民への周知
⑦委託が必要な場合は「住宅宿泊管理業者」と契約
以上が一つでも問題化すると開業すらままならない。そして以下の図は事業を行うまでの流れの全体である(大田区の場合)。
予約さえ埋まっていれば儲かる
苦労して開業し、民泊の仲介サイトに我が民泊を掲載して、予約も順調に埋まっていても、儲からないケースがあるという。実際、以下のようなケースが発生する。
①収支は黒字だが、近隣トラブル等で営業ができなくなって開業資金を回収できない。
②トラブルなく運営は続けているが、収支計画が甘く儲けが出ない。
①に関して、自宅開業でない場合、買っても借りても開業資金がそれなりに掛かる。物件の準備をはじめ客室で使う家電や消耗品、設置義務のある消防・照明設備、物件の状態や集客コンセプトに応じたリノベ―ション費用等、場合によっては数百万円を要する。その結果、人気を博して順調に予約が埋まっても、近隣住民に理解無き方がいた場合、何かとクレームを入れられて撤退止む無し、となる事態もある。
よって、申請や届出以前の事前準備として、民泊営業予定地の当該地域の近隣リサーチ、近隣宿泊施設のマーケティングもやっておくべきだろう。地方都市で住居を購入する際には、住み始めてから後悔しない様に当該住居の近隣の住民を回って情報収集をするという。民泊の開業を自宅以外で検討なら、この程度の手間はかけるべきである。
②に関しては、たとえば賃貸物件で運営する場合、仮に民泊事業で上手くいかなかった際のリスクヘッジとして、住居としても賃貸収益が出せるような物件にしておく必要がある。そうすれば気持ちにも余裕をもって運営ができる。その余裕が民泊事業の成功の確率を高める。
その上で、開業コスト及びランニングコストを計算し、収益計算をして、民泊事業での利回りもしっかり出ると見込んだ上で開業するべきである。商売は、電卓を叩いてみなければ始まらない。
個人がやっていた場合は自由に止められる
民泊を個人で開業する場合と同様、個人で廃業する場合にも届出をする必要がある。住宅宿泊事業法(民泊新法)では、事業廃止を決する事由が発生したとき等から30日以内にその旨を観光庁長官に届けなければならない(同第52条)。同条第一号では、住宅宿泊仲介業者である個人が死亡したときには、その相続人が届け出なければならない、とされている。
まとめ
参入障壁が低そうな民泊であるが、届出前準備を含め、とても簡単なものには感じられなかったのではないだろうか。特に近隣住民への周知は、飲食店の開業ならば集客面やご挨拶程度といった意味合いからもそれほど気が重くないはずだ。
一方民泊は、やると言い出した途端に近隣の人々に警戒される可能性も多々ある。そして事業者が、特に社交的でないなら、この作業を専門家に頼むなどして事前準備をスムースに行う方が賢明である。一度付いてしまった悪評を拭い落とすのは困難だろう。予約が埋まり儲かっているにも関わらず、先行投資を回収する前に廃業届を出すという憂き目に遭わないためにも、やはり行政以外の専門家へも相談した方が良いと思われる。
参考
コンデックス情報研究所編(2018)『新法「住宅宿泊事業法」対応! 民泊の手続き・届出がわかる本』成美堂出版
不動産プラザ
https://gro-bels.co.jp/media/article/1671/