今回は、まず一般に知られていない民泊の定義及び公表されている民泊物件数の実態について一次情報に基づいて明らかにする。次に、食事を提供することで民泊に付加価値を付ける方法に触れる。最後に、「食×民泊」を実現する許可・届出等について言及している。
はじめに
民泊を開業する以上、当然に収益を上げたい。又、収益は多ければ多いほど良いだろう。であれば、ただ単に部屋にゲストを泊める宿泊サービスをするのではなく、何か付加価値をつけて客単価を上げたい。今回はその客単価を上げるための「食×民泊」のフレームワークを考察していく。
実は、みんぱくの定義は曖昧
客単価アップと民泊の定義の話しとは一見、何の関係もないと思われるかも知れない。しかし、これが無関係ではない。厳密に言うなら、民泊というフレームワークを使って、そこに「食事」という付加価値を付けられる運営者なら大いに関係してくる話しである。
そのことと関連して、まず皆様に謝らなければいけない事実がある。それは、以前の記事「民泊の運営に欠かせない法令とは(その1)」にて挿入した下図内の、104,353件という数値である。
上記の取扱件数が誤りだったのである。”偽りの数”ということではない。「実態を反映していない」が正しい。上記は、「住宅宿泊仲介業者等が取扱う民泊物件の取扱件数」であって、「民泊物件数」ではない。同データを作成した関係官庁に直接確認した事実だから間違いない。
ではなぜ、このような実態が起きたのか…。”観光立国を推進する政府”が制度に則った“健全な民泊サービスを普及”させるべく、その普及具合を調査するために各民泊仲介業者に、取扱う民泊物件の数を申告してもらった。よってこの数はおおよそ、ウェブサイト等民泊の各仲介業者のサービス媒体に記載されている民泊数を機械的にカウントした累計であると考えられる。つまり、熱心なオーナーが運営するAという民泊一つが、10社ある民泊仲介業者すべてにAの掲載を依頼した場合、10社のサービス媒体すべてにAが紹介される。すると実態では1件の民泊Aが、上記のカウントでは10件として計上されるのである。
では、なぜこのような現象が生じたのか。推察すると、政府としては観光立国を標榜し、民泊を推進して、「民泊新法」や「特区民泊」まで制定した以上、その数が増えた方が良い。ならば、明確に嘘ではない方法でより多く見えるカウント方法を取りたくなるのは人情的には理解できる。よって、虚偽ではない表記だが、語感からくる誤解・錯覚を利用し、「民泊物件数」がさも10万件あるように見せたのである。
次に、そもそも旅館業法に基づく旅館やホテルとして営業している施設が、なぜ民泊物件として取扱われることになってしまうのか? これはあたかも、民泊を開業しようとした人が、営業日数の制限を受けたくないから、民泊営業(つまり、民泊を開業するべく)を始めるにあたって開業のハードルが低い民泊新法ではなく、許可のハードルが高い旅館業法を取得して民泊を開業したかのように思える。そのケースもなくはないが、上記の統計に関しては、「断言できないが…」と前置きした上で、次のことが言えると関係官庁が明らかにした。
仮に世界的な高級ホテルが時流に乗りイベントの一環で、数ある客室の一つを“民泊フェア”として集客するべく民泊関連サイトに掲載したとする。この時点でその客室は上図でいうところの「住宅宿泊仲介業者等が取扱う民泊物件」としてカウントされ、民泊の仲間に入る。更に言うと、この高級ホテルの民泊フェアの一室を、10ある民泊関連媒体に全てに掲載すると、高級ホテルの一室が民泊10件としてカウントされるのである。高級ホテルは極端な例だとしても「シティホテル」クラスでは現実にありそうな企画である。
更に、みんぱく(民泊)の厳密な定義はないらしく、だからこそ上記の様な実態とは乖離した数値がまかり通るのである。つまり、「あなたの所は、高級ホテルだから民泊ではない」とはじかれない。
いわば「民泊」という用語は、観光用語や集客のためのマーケティング用語とみなしても過言ではない。つまり、旅館業法で営業している施設が民泊営業を始めるタイミングで、「民泊やります」と義務的に行政等に周知しているわけではないのである。
前置きが長くなってしまったが、ここからが本題である。旅館やホテルは食事を提供するのがいわばデフォルトだから、旅館業法にて許可を受ければ、少なくとも宿泊客に対しては食事を提供できると考えられる。しかし、原則、これが間違いである。“原則”としたのは、特に民泊の場合には厳密な基準がないからである。原則、「業」として反復・継続的に食事を提供する場合には、それが宿泊客限定であったとしても、食品衛生法に基づく飲食店営業許可の取得が必要となる。この勘違いから派生して、民泊を営業する許可や届出をしていれば宿泊客に対してだけは、有料での食事提供が許されそうである。だがこれも、原則、許されない。
民泊においても食事の提供が許されるケースは極めて限定的である。「家主居住型」が大前提で、あくまで「宿泊者のみ」に「実費(材料費・燃料費等)」で、「家主のテーブルに混ざる態様」で提供される場合には許される。いわゆるホーaムステイのイメージである。よって、この記事の主題である、「付加価値を付ける」「客単価アップ」「マーケティング上の“強み”として」等々、営業の一環で行う場合には許可が明らかに必要となる。さらに、自宅の一室で、家主居住型の民泊にて「業」として「反復・継続的」に食事も提供する場合には、自宅のキッチンとは別に、飲食店営業の許可取得のための調理スペースが必要となる。
この問題をシンプルに整理すると、宿泊事業と飲食事業は完全に分けて考える。「民泊」の文脈に置き換えると、“民泊”という枠組みで宿泊事業をやる際は、民泊3法のいずれかの許可等が必要。有料で飲食を提供したいなら飲食店営業許可が必要となる。つまり、営業許可等の面でいうと、“泊める”と“食事を出す”は全く別ものなのである。旅館やホテルにデフォルトで食事が付いて回るのは飽くまで消費者の視点である。
食事×宿泊で単価アップ
よほど客室のコンセプトメイクが魅力的なら話は別だが、単に宿泊サービスを提供するだけの民泊だと競合との差別化が図れず、顧客単価はその地域の相場を脱却できない。
もしあなたがプロの料理人でなくとも、下手の横好きレベルで料理が得意な人で、日本食を作れた仮定する。その場合、「民泊×日本食の提供」を行えば、日本が好きで日本を訪れるインバウンド客としては「日本食が味わえる民泊」はこの上ない付加価値となる。まして、日本人が海外旅行をする場面を思い浮かべれば容易に想像できるが、日々の生活でその土地の人々が口にしている家庭料理は、旅行者向けにいわば商品化された料理には出せない格別の魅力がある。まして日本文化が好きで日本に来ているインバウンド客ならば、外向けに成形された食事より、その土地の民が日常的に口にしている料理の方がむしろ興味・関心があるのではないか。よって、料理のプロでなくても一般的な日本食を作れるのであれば、それは民泊を運営する上で顧客単価をアップする付加価値となり得るのである。
ただし、上記で明記したように「業」として行う場合には、飲食店営業許可が必要となる。前回記事で触れた、費用対効果、収益計画等そろばんをはじいた上で行うべきである。
○○食民泊の届出の方法
食事が提供できる民泊ならば、民泊紹介サイトにて横並びで紹介される競合の中にあって、頭一つ飛び抜けた“目立つ民泊”となり、マーケティング的にも効果的な戦術となり得る。そんな自分の得意な料理を活かして「日本食民泊」、「中華民泊」(毎日中華を食べたい層には強烈な付加価値)、「ヴィーガン民泊」(日本ではその数は少ないが、国によっては一大市民権を得ている)、「ムスリム民泊」(先進的または理系の大企業の社食では“ムスリムメニュー”も決して珍しくない)等々、食による付加価値を付けて唯一無二の存在を獲得し、顧客単価アップを実現しやすくなるだろう。
この許可・届出等に関しては、その土地々々によって、あるいは提供する食事の内容によって基準等に違いがあるため管轄の保健所に相談しつつ飲食店営業許可を取得し、別途民泊3法に照らして個々のリソースに合った民泊の開業を目指すのが賢明である。
まとめ
今後想定されるインバウンドの拡大に伴い民泊が活況を迎えるのは想像に難くない。すると競争もし烈になり、価格競争に陥る。収益は頭打ちで魅力的なビジネスにはなり得ない。そこで、この記事でご紹介した「食×民泊」にて価値を創出し、付加価値を付けることで収益性の向上を図りたい。
参考
コンデックス情報研究所編(2018)『新法「住宅宿泊事業法」対応! 民泊の手続き・届出がわかる本』成美堂出版