設備 最終更新日: 2023年09月30日

防炎とは〜防炎対象物品とその制度〜

消防法には防炎規制というものがある。これは、特定の建物や使用用途によっては、火災の拡大を防ぐため、定められた規格の防炎物品を使用しなければならないというものである。防炎対象物品の制度について正しく理解していなければ、無駄な買い物をしたり、防火対象物点検のコストが上昇したり、そして、最悪の場合は火災が発生してその責任を問われることにもなりうる。そのため、建物責任者は制度を正しく理解し、建物運営を行っていく必要がある。

防炎規制とは

防炎規制とは、特定の使用用途や条件を満たす建物は、カーテンやじゅうたんなどを使用する際には政令で定められた規格の物品を使用しなければならないという消防法の要請である。

根拠法令である消防法第8条の3には以下のように定められている。

消防法

第八条の三 高層建築物若しくは地下街又は劇場、キャバレー、旅館、病院その他の政令で定める防火対象物において使用する防炎対象物品(どん帳、カーテン、展示用合板その他これらに類する物品で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)は、政令で定める基準以上の防炎性能を有するものでなければならない。

なぜこのような定めがあるのかというと、指定された防火対象物には不特定多数の在館者がおり、火災が発生すると被害が大きくなる可能性があるからである。そこで、同建物においては、火災が発生しても燃え広がりにくい物品を使用するように義務付けた、というのがこの条文の主旨である。

なお、政令で定められた規格に則った製品には以下の表示が取り付けられている。

この法令に違反し、規格外の物品を使用したからと言って直ちに罰則されるような規定は存在しない。しかし、防火管理業務が適正に行われていないと消防署に見なされることはある。防炎物品を建物に使用する責任を担っているのは防火管理者や建物所有者等であり、もし建物で火災が発生し犠牲者が出た場合等は責任者として罰則を受けることもありうるので、防炎規制は一概に無視できる条文ではない。

また、防火対象物点検では、この防炎対象物品をチェックする項目も存在するので、上述した防炎表示がなされていない製品を使用している場合は防火対象物点検を違反なしでパスできないことになる。そうなると、建物の優良認定が受けられないことになり、点検コストが大きくなってしまう点にも建物責任者は気にするべきであろう。

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防炎表示が必要な建物

対象となる具体的な防火対象物及び用途は以下のとおりである。

① 高さ31mを超える高層建築物

② 地下街

③ 消防法施行令別表第1のうち、(一)項から(四)項、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十二)項ロ及び(十六の三)項

④ 工事中の建築物及びその他の工作物(工事用シートのみ)
(1) 建築物(都市計画区域外のもっぱら住居の用に供するもの及びこれに附属するものを除く。)
(2) プラットホームの上屋
(3) 貯蔵槽
(4) 化学工業製品製造装置
(5) 前2号に掲げるものに類する工作物

参考

東京都消防庁「防炎防火対象物」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/bouen/p03.html

防炎規制を受ける物品

上記対象建物に該当してしまった場合、以下の物品を使用する場合には、上述した防炎表示のあるものを使用しなければならない。

① カーテン

幕の一種で、窓及び出入口等といった開口部等の目かくし、室の仕切り又はベッドの囲い等に用い るもの。

② 布製ブラインド

窓及び出入口等の開口部等に日よけ、目かくし等を行うために用いるもの。

③ 暗幕

映写室において使用されるもののみならず、キャバレー等において遮光のために用いるもの も含む。

④ じゅうたん等

じゅうたん、毛せん、タフテッドカーペット、ニッテッドカーペット、フックドラッグ、接着カー ペット及びニードルパンチカーペット、ござ、人工芝、合成樹脂製床シート及び床敷物(毛皮製床敷物、毛製だん通及びこれらに類するものを除く)。

⑤ 展示用の合板

展示用のパネル、掲示板、バックボード及び仕切用パネル等に使用される合板。壁の一部となっているものや黒板は該当しない。

⑥ どん帳その他舞台において使用する幕

水引、袖幕、暗転幕、定式幕、映写スクリーン等を含む。

⑦ 舞台において使用する大道具用の合板

舞台部において使用される舞台装置のうち建物、書割、樹木、岩石等出場人物が手にとる ことのない飾付に使用されるもの。

⑧ 工事用シート

立ち上っている状態で使用されるもの。コンクリートの養生、工事用機械等の覆い などとして使用されるものは含まない。

これらの物品は、水平もしくは垂直方向に広がるものであり、仮に着火すると広範囲に燃え広がる恐れがあるため、このような規制を必要としている。

認定表示に注意

防炎物品の規格については、残炎時間や炭化面積、接炎回数等の厳格な規定があるのだが、建物責任者側はそのような細かい点は気にしなくて良い。一番気をつけなければならないのは、上述した防炎表示のついた製品を使用するということである。

一番最初に述べたとおり、これがなければ、いくら防炎性能が高い製品であろうが、消防法違反である。すなわち、防火管理業務の不適であり、防火対象物点検にも引っかかる。

実際に、建物責任者が消防署や防火対象物点検資格者に防炎性能を有する物品を購入するように指摘され、防炎性能を有するとの表示のある製品を購入したものの、認定マークがないために不適合、という話はよくある。そもそも、総務省消防庁の登録認定表示と見間違う紛らわしい表示をすること自体が違法ではあるものの、「炎に強い」という意味の表示をすること自体は違法ではないため、この制度をよく理解していないと無駄な出費が膨らんでしまう。

この制度の良し悪しはさておき、建物責任者は総務省消防庁に登録を受けた表示のある製品を購入していただきたい。そうすれば、確かに一定以上の防炎性能を建物に付与できるとともに、防火対象物点検の優良認定制度を活用し、建物の維持管理コストを下げることにもつながるだろう。

参考

総務省消防庁「防炎の知識と実際《防炎普及用資料》」
https://www.fdma.go.jp/relocation/html/life/yobou_contents/fire_retardant/pdf/bouen_01.pdf

東京消防庁「防炎について」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/bouen/index.html