防火対象物点検は消防設備点検とは異なる点検であり、その制度について深く理解している建物所有者等は少ないかと考えられる。ここでは防火対象物点検でどのような点をチェックされるのか、そして点検全体はどのような流れを取るのか解説する。この点検の結果次第で、建物所有者等は建物の安全性を建物内外にアピールすることができるほか、点検コストをカットすることも可能であるため、積極的に活用したい制度である。
防火対象物点検概要
防火対象物点検とは、建物全体の防火管理が適切に行われているかどうかを点検するものであり、消防法で定められる法定点検である。消防用設備の点検とは別もので、防火対象物点検は消防用設備の点検を含む建物の防火管理そのものが適正に行われているかどうかを点検する、いわば監査の性質をもつ点検である。防火対象物点検の制度そのものについては「防火対象物点検とは」を参照していただくとして、今回は実際に防火対象物点検ではどのようなポイントを点検するのか、また、点検全体はどのような流れになるのかを順を追って解説する。
点検されるポイント
防火対象物点検でチェックする項目については、消防法施行規則第4条2の6に定められており、大まかにまとめると以下のとおりである。
- 防火管理者が選任されているか。また、その届出がなされているか
- 消防計画が作成されているか。また、その届出がなされているか
- 必要な消防用設備が設置、届出、維持点検されているか
- 危険物の貯蔵、取り扱いが適切に行われているか
- 避難通路や防火戸が適切に管理されているか
- 自衛消防訓練が定期的に行われているか
- 防炎物品が使用されているか
- 統括防火管理者が選任されているか。また、その届出がなされているか(該当防火対象物のみ)
- 自衛消防組織設置の届出がなされているか(該当防火対象物のみ)
大きく並べると以上のようになる。実際の点検項目は細部に分かれており、その一つ一つを点検していくことになる。当然、建物や使用用途によって該当する箇所はそれぞれ違うため一概に全て同じ点検というわけではない。しかし、防火対象物点検の本質は、建物の防火管理状況を点検するものであり、防火管理は防火管理者が消防計画に則って行うものである。すなわち、どのような建物であれ、防火管理者の選解任状況と消防計画は防火対象物点検で必然的に重く見られる項目となり、この部分が適切に管理されているかどうかはどの建物についても該当することになる。言い換えれば、防火管理者と消防計画は防火管理状況の根幹をなすものであるため、この二つが不適となると、点検の大部分が不適となってしまう。
なお、消防計画は防火管理者が作成し届出する書類であるため、防火管理者が未選任であれば消防署に提出することができない。もし、防火対象物点検の該当物件であるにも関わらず、防火管理者が未選任である場合は、点検以前の問題なので一刻も早く建物関係者に所定の講習を受講させ、防火管理者として消防署に届出するべきである。もしこの状況で建物で災害が発生し、防火管理状況の不備に起因する事故が発生した場合、建物責任者は罰金の他、逮捕されうる状況にあるということを知っておいていただきたい。
点検全体の流れ
さて、ここでは防火対象物点検の点検依頼からその報告まで実際の流れに沿ってかい摘んでではあるが紹介する。実際に自身が関係する建物が防火対象物点検をすることになったと仮定して想像していただきたい。なお、これらはあくまで当方のやり方であり、点検業者によってそのやり方は違うかもしれない。しかし、全体を通してみれば、各々点検項目を網羅して終了になるため、あくまで順番の問題である。とは言え、一般的には、点検の効率性から見て当方のやり方で行う業者は多いのではないか。
① 関係者立ち会いのもと書類の確認
まずはじめに関係書類の点検を防火管理者立ち会いのもと行う。ここでは消防署に届出する書類が正しく提出されているかを確認するとともに、消防計画の中身を確認し、点検で見なければならない箇所や、点検全体の流れを把握する。また、一見消防法違反と思われるような建物状況であっても、過去に消防との取り決めで問題なしとなっているケースも稀にあるため、そのような過去の記録について照合する作業もここで行う。
当方が点検を担当する場合は、事前にこれらの書類について用意していただくようご連絡した上で点検当日を迎えるようにしている。書類の中には普段使わないものも多いため、どこに保管してあるのかすぐにわからない事業所も多い。しかし、必要な書類がないと点検が長引いたり、点検結果を不適としなければならない箇所も出てくる。防火対象物点検は定期的な点検であるため、該当書類についてはその都度使用することになるので関係書類の適切な管理も合わせて行っておくのがおすすめである。
② 建物を巡回する
当方の場合、大きな建物の防火対象物点検をする際はまず防災センターを訪れることからスタートする。防災センターは文字どおり防災を司る部門であるため建物全体の防災システムや業務体制をチェックするには最適である。
次に、機械室やポンプ室など、バックヤードの部屋や避難通路を確認して回る。この際、少量危険物がある場合は合わせてそれもチェックする。危険物のチェック項目は、貯蔵量の他、漏れや溢れがないか、適切な容器が使われているかといったように細分化されている。もし、防火対象物点検実施者が危険物取扱者や毒物劇物取扱者の資格を保持していれば、その点において強い安心感が得られるであろう。
バックヤードの巡回が終わったら、各店舗や事務所等表立った場所のチェックを移動しながら行う。ここで挙げる指摘事項として多いのは、避難通路や消防設備の前に物が置かれその機能が損なわれている状況である。とくに避難階段として使われる屋内及び屋外階段における物品存置は厳しく見られることになる。なぜなら防火対象物点検が制度化される原因となった2001年新宿歌舞伎町の雑居ビル火災では、避難階段が物置と化していたことにより、在館者が逃げられなかったため、結果として大勢の犠牲者を出すことになったからである。また、不特定多数の者が出入りする建物用途においては、防炎物品が使用されているかどうかも合わせてチェックすることになる。防炎物品について軽く触れておくと、消防法では高層建築物や病院、旅館、飲食店等において、カーテンや絨毯、展示用の合板等を使用する際は防炎対象物品という消防庁指定の物を使わなければならないという縛りが存在する。適合品でなかったり、経年劣化によりその性能が保証できないと判断されれば点検結果は不適となってしまう。
なお、ここまでの点検の際に指摘事項として挙げられた違反であっても、点検時に即時改修できるものであれば、すぐに改修することで判定を適にすることができることは公に認められているため、多少の融通は効く点検となっている。ただし、消防署への書類届出不備や、消防設備の未点検等はすぐに改修することができないため不適事項として挙げざるをえない点には注意していただきたい。
③ 結果を消防署へ提出
点検結果を「防火対象物点検結果報告書」として取りまとめた後、建物所有者等が署名をして消防署に提出すれば防火対象物点検は終了となる。なお、点検結果に「不適」があった場合は「改修計画書」を作成し別途消防署に提出する必要がある。改修計画書とは、消防署に対し、不適事項を定められた期日までに改めることを伝える文書であり、実際に改修したら完了報告をもって終了ということになる。
さいごに
防火対象物点検のチェックポイントや点検の流れは以上のとおりである。初めに述べたとおり防火対象物点検は監査の性質を持つため、建物所有者にとっては煩わしいと感じる面もあるかもしれない。しかし、日常から防火管理を適切に行い、防火対象物点検に不適事項なしでパスできれば、安全基準適合の表示を表示することができるとともに、3年間それを続けることで翌3年間は防火対象物点検をする必要のなくなる特例認定制度も存在している。防火対象物点検は法定点検であるものの、特例認定を使えば点検コストをカットすることも可能である。また、仮に防火対象物点検で不適事項が挙げられたとしても、該当箇所を改修し、再度点検資格者にその箇所の点検をしてもらえば安全基準を満たしたことにできるので、建物責任者は積極的にこの制度を活用し、建物の安全性を高め、内外にそれをアピールする機会を作っていただければ幸いである。
参考
日本消防設備安全センター「防火対象物点検資格者講習テキスト」