実は多くの人が防火管理者になる可能性がある。防火管理者は法律に基づいて設置される役職であり、違反すると3年の懲役や1億円の罰金刑が科されることも。防火管理者制度とその業務について解説するとともに、実際に防火管理者として選ばれた場合の対策について解説。
目次
防火管理者になる可能性
実は多くの人が防火管理者になる可能性がある。防火管理者を知らない人のために説明すると、防火管理者とは、簡単に言えば建物の火事や地震、水害に対応する責任者のことである。聞くだけで面倒だと思うかもしれない。しかし、防火管理者は消防法に基づいて設置される役職であり、違反にはペナルティがある。防火対策を施さない建物で火災が発生した場合、多くの人命が失われることになることを考えれば仕方なかろう。
その意味では防火管理者自体は文字通り防火に向けた対策を実施する管理者の事であり、非常にシンプルな要請ではある。しかしながらその詳細は、実は複雑であったりする。例えば、防火管理者は消防法第八条の要請によって定義されるものであるが、建物の「管理について権原を有する者」が防火管理者を設置することが義務づけられている。しかしながらこの「管理について権原を有する者」という言葉が実は難しい。「管理について権原を有する者」といっても建物で一人というわけではない。多くのテナントが入居するビルがあったとして、あるテナントが別のテナントの火気を管理することは現実的ではないからだ。例えば、あるビルに焼肉屋とラーメン屋が入居していたとして、焼肉屋の店員がラーメン屋の中に入り火事にならないように監視するなどということは考えられないだろう。それぞれが、自分の場所を自分で監督する必要があるのだ。すなわち、防火管理者は建物のテナント毎に必要な存在である。総務省発出「消防白書」によると、2019年、全国で防火管理者が必要な対象は107万4294件あるそうだ。日本人口のだいたい100人に1人が防火管理者であるべきなのである。
ここまで説明すれば、防火管理者が他人事ではないと感じる方も多いだろう。とは言え、防火管理者は必ず設置しなければいけないわけではない。該当するか否かの条件があるのだ。以下では、防火管理者制度の概要と、あなたのいる建物が防火管理者を設置する義務があるのかどうか、そして、義務があればどのような業務を果たさなければならないのかを述べる。
防火管理者制度について
防火管理者は、防火管理の概念、すなわち、「自分のことは自分で守る」という考えの実施者として設定された存在である。防火管理者は消防法の第八条及び、各自治体の火災予防条例に義務付けられた役職で、罰則規定についても明記されている。防火管理者は法律に基づいて様々な火災や他災害の対策を取らなければならない。気になる設置条件だが、厳密に提示すると非常に長くなるため、おおまかに判断する方法をお伝えする。
これによりだいたい判別できる。必要に応じて防火管理者を定めることになるが、防火管理者は誰でもいいというわけではない。「従業員を管理・監督・統括できる地位にある者」という条件があるため、会社の中で上役の人間が就くのが通常である。その上で、所定の講習を受講し、防火管理者の資格を得なければならない。講習の日程は各自治体の関係団体が発表しているのでそれを調べて申し込み、受講する。ちなみに東京都の場合、受講費は無料だが、テキスト代として5,500円の支払いを迫られる。
防火管理者の業務
防火管理者の業務は主に以下である。
- 「防火管理に係る消防計画」の作成・届出を行うこと
- 消火、通報及び避難の訓練を実施すること
- 消防用設備等の点検・整備を行うこと
- 火気の使用又は取扱いに関する監督を行うこと
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理を行うこと
- 収容人員の管理を行うこと
- その他防火管理上必要な業務を行うこと
それぞれの項目をどの程度やらねばならないかは、あなたの所属する事業所がどういった事業を行っているか、建物全体がどのような事業を営んでいるかによって変わる。基本的に、不特定多数の人が出入りする建物であるならば、それだけ重い業務が課されることになる。
いずれも火災対策としては重要であるが、実施していないともしもの時に言い逃れができないのは特に1,2,3,5である。ここではそれらについて重点的に述べていこう。
1. 「防火管理に係る消防計画」の作成・届出を行うこと
消防計画とは、火事やその他の災害があったときに事業所としてどうするかを記載した計画書である。消防計画については別記事で詳しく解説するが、防火管理者は消防計画を作成し、管轄消防署に提出する義務があるとひとまず覚えておいてほしい。
2. 火、通報及び避難の訓練を実施すること
小学生の時に避難訓練をした覚えがある人は多いと思う。あれである。避難訓練のほか、災害に遭遇したと想定して消防に通報する訓練や、消火器の取り扱いに関する訓練を従業員等に実施させなければならない。これらを、事業所や建物の規模に応じて年1〜2回行う義務がある。飲食店が多く入居するビルで働いていたり、大きなマンションに住んでいるのに今まで訓練が行われているかどうか知らないという人は、その建物で防火管理者が選任されていないか、防火管理者のやる気がないのである。
実際、真面目にやろうとするとかなり面倒である。訓練の計画を立て、日程調整し、関係機関や従業員、マンションの居住者全員に連絡して訓練の参加を呼びかけ、集まった人を指導しなければならない。従業員に災害対策を指導できる人は普通いないし、当然訓練中は通常業務に支障が出る。それを行政側も理解しているため、きちんとやらなくても「まあ仕方ないでしょう」と事務的に認めてくれているのが現実の所である。とは言え、訓練自体には、消防局へ実施予定の連絡と実施報告の提出が義務付けられているため、やっていないと記録が残って必ずバレるため、やらないわけにはいかない。当然やらなければ違法だし、もしものときには防火管理者が責任を取らされる。実に損な役回りである。
3. 消防用設備等の点検・整備を行うこと
消防用設備とは、消火器や屋内消火栓、非常ベルの類である。これらの設備は設置したあとも定期点検をしなければならず、その監督責任を持つのが防火管理者となる。点検は半年に1回、消防への定期報告は1年もしくは3年に1回である。条件さえ満たせば自力で点検できないこともないが、現実的には消防設備点検業者に頼むことになるだろう。ただ、大抵の場合、ビルメンやマンション管理業者が建物に設置してある消防用設備を一括して点検管理している。なぜなら、消火器を除き、消防用設備は建物全体に影響を与える大規模な設備であることが殆どで、一テナントが請け負うレベルではないからである。点検の際には通常消火器も合わせて点検されるため、テナントの防火管理者は、点検が行われているかどうかだけ知っておけば通常事足りる。ただ、気にしていないと実は点検をしていなかったということもあるので、確認はすべきであろう。
5. 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理を行うこと
これは消防設備以外のことも監督しろという意味である。具体的には避難通路の確保や排煙ダクトの掃除等である。特に気をつけたいのは避難通路についてである。よく廊下や階段に看板や荷物が置かれているが、消防法上これらはアウトである。廊下や階段は何もなくまっさらな状態でなければならない。これを監督するのも防火管理者の役目というわけである。なぜこれに気をつけたいかというと、消防局が目を光らせている所だからである。突然の立ち入り検査で見つかると即改修を命じられ、量が多いとすぐに改修できず、警告文が建物に貼られることになる。そうすると危険な建物との認識が一気に広まるので是非避けたいところである。そもそも、なぜ消防が目を光らせているかというと、2001年の歌舞伎町ビル火災で、避難階段に大量の荷物が置かれていたため避難経路として機能せず、全体で44名が死亡する事になった教訓があるからである。なお、この火災を受けて、防火対象物点検という避難通路を含めた点検が一部の建物に義務付けられるようになった。この防火対象物点検についても、別記事で解説する予定である。
もしも防火管理者に選ばれたら
ここまで読むと防火管理者が非常に面倒な責任を背負っていることがお分かりになると思う。それでも、もし防火管理者にならざるを得なくなったら、まずは管轄の消防署に相談することを勧める。講習の受講から、消防計画の作り方、消防設備の点検報告の仕方など順序立てて教えてくれるはずだ。講習ではあまりの人の多さに驚くだろうし、講習後も度々消防署に通うことにもなるだろう。
気休めかもしれないが、防火管理者は防火管理に対する最終責任者ではないことはお伝えしておく。最終責任者は建物のオーナーや会社であれば社長である。つまり、現場のあなたが防火管理をやろうにも、講習時の人員管理や消防設備の点検をしてくれないビルオーナーがいれば、防火管理は上手くいかない。そのような時は、自分が防火管理者としての職務を全うしようとしていた記録だけは残しておいたほうがいい。いざという時にそれが保険として効いてくるだろう。
もし、あなたがマンションの防火管理者として選ばれる場合、消防署が認めれば防火管理者の業務委託が可能である。何をしたらよいかわからない、業務が面倒と感じれば、当方でも他の事業者でも構わないので、取り敢えず委託業者に連絡してみるのもいいだろう。