消防立入検査とは、消防査察とも呼ばれ、建物の防火防災管理状況を消防法に基づき行われる検査である。事前連絡が来る場合もあれば、抜き打ちで行われる場合もあり、建物の所有者や防火管理者は日常から行動として法令の遵守を行わなければならない。いざというときに責任を問われるのは所有者や防火管理者なので、法令遵守に何かしらの障害が立ちふさがる場合は消防署を巻き込んだ対策を講じることが重要である。
消防立入検査とは
消防立入検査とは建物に防火防災に関わる違反もしくは障害がないかを確認する、消防職員による実地チェックのことである。消防査察や単に査察、とも呼ばれる。行為の根拠として消防法第4条、「資料提出命令、報告の徴収及び消防職員の立入検査」がある。法律上は事前連絡なしで抜き打ちの立入検査を実施することも可能とされているが、事前連絡をする場合が殆どである。
立入検査は、消防側の話をすれば立入検査と一言で言っても実施する職員や実施する主旨によって性格が異なっている。大まかに分けると、立入検査専門の職員がチェックするのか、それ以外の職員がチェックするのかの2種類である。専門の職員によるチェックはそれだけチェック項目が多い場所、すなわち多数の消防設備を設置していたり、テナントが複数入居し防火管理の権原が分かれている比較的大きな建物に対し行われる。一方でその他の職員によるものは、小さなマンション等を対象とすることが多く、単なるノルマ稼ぎとして行っている場合もある。また、火災や救急の現場となった場所で活動した後、ついでに点検をすることもある。なお、自治体によっては多数の職員が一斉に特定の地域を対象に立入検査を行う機会があり、これについては告知なしで行われることも多い。これは、何らかの事故が発生し、同種事故を防ぐために一斉チェックをするものから、繁華街の雑居ビルを対象に避難経路等が適切に維持されているかどうかの確認を行うなどその目的は様々である。
チェックされるポイント
消防職員によるチェック項目は多岐に渡るが、ここでは特にチェックされやすいポイントについて解説する。ポイントだけ押さえれば良いというわけでは決してないが、消防職員が気にする箇所=災害時に重要となる箇所なので、施設の管理者は日常から以下の点には特に気をつけておいたほうが良いであろう。
①避難経路の確保
火災やその他災害が発生した時に、建物の利用者が速やかに避難できるかどうかをチェックする。これまでに避難経路が確保されていなかったために犠牲者を多数出した災害事例は多く、消防行政は同種事故防止に力を注いでいる。特に立入検査対象物件が雑居ビルであれば、最重要点検項目としてチェックされると言っていい。よくある違反が階段や廊下部分に物を置く行為である。消防法上は、店の看板だろうが、傘立てだろうが物が置かれていたら違反である。ある程度の広さを確保していれば大丈夫と判断する方も多いが、その言い訳は認められないため注意しなければならない。また、建物によっては避難口に向かう通路に誘導灯が設置されている場合があるが、背の高いオフィス用具やパーテーション等により視認状況が悪いと判断されると指摘を受けるため、物の配置には気をつけなければならない。
②消防設備の維持管理状況
消火器を始めとする、消防設備が正しく点検されており、使用できる状態で管理されているかをチェックする。実際に消防設備を稼働させることは稀で、外観の点検や点検実施日を記載シールで確認することが多い。また、消防設備の前に荷物が置かれていると、「有事に使えない状態」と判断され改善を求められる。荷物であれば即撤去を指示されるが、すぐに移動できないものを置いてしまうと、今後の改修計画と改修後の再検査を求められる。また、消防設備ではないが防火扉の前に同じく荷物が置かれていると同じく撤去を求められることにも留意していただきたい。
違反が見つかってしまったら
立入検査後には「立入検査結果通知書」が発行されサインを求められる。これはその名のとおり立入検査を実施した結果として違反の有無や違反があればどこが指摘されたのかが記載されている。廊下や階段部分に置かれた少量の荷物を指摘され、その場ですぐに撤去すれば通知書内で指摘はされるが、「即時改修」ということで大きなペナルティはないことが殆どである。すぐに改修できない違反や悪質な違反が見つかれば、上述したように、日付を定めて違反を改修する旨を定めた「改修計画」を消防署に提出し、別途改修が完了したかどうかの確認を受けることになる。また、消防職員の是正指示に従わない、もしくは違反が悪質と判断された場合は建物名を公示され、自治体のホームページにその名が公表されたり、建物の壁面にその旨を記載した張り紙を掲示される可能性がある。こうなると、建物の信用は無いも同然なので事業者であれば大きな損害を受けることになるだろう。
雑居ビル等の複数テナントが入居する建物は、テナントの管理者の性格によっては私物の整理整頓を行わず、避難障害を日常的に繰り返す場合も散見される。防火管理者が、再三注意しても聞かない相手もいるため、そのような場合は管轄の消防署に相談することをおすすめする。もし、揉め事を起こしたくないとその状況を放置し、人の命を落とす事故につながれば、管理責任を問われるのは防火管理者である。生命を守るためはもちろんのこと、是正に向けて努力していたという公の記録を残しあなたの身を守るためにも消防署を巻き込んだ対処はするべきである。