2020年9月パナソニックがIoT対応型住宅用火災警報器の発表を行った。それ以前から、IoT的ニュアンスを勘案した火災警報器は、一部日本でも聞かれていた次第である。それにもかかわらず、そのような火災警報器が主流となるに至らないのには何らかの原因があるからであろう。本記事では当該原因を示唆するとともに、その障害があってもなお今後当該警報機が主流化することを指し示す。その上で最後にアメリカのHEMSとの統合事例を見て今後の方向性を占う。
パナソニックによるIoT対応型住宅用火災警報器の発表
今となっては少し古い話になるが、2020年9月パナソニックがIoT対応型住宅用火災警報器を投入した。それ以前も「火守くん」等が先んじて投入していたものの、一部大手が参入したことによって、いよいよIoT対応型消防設備が本格普及に入る前触れ等ではないかと考えられる。金額も親機子機ともに10,000円程度におさえていることからパナソニックとしてはある程度の普及を見込見始めたと考えてもよいであろう。
参考
パナソニック株式会社「業界初火元をお知らせするIoT対応住宅用火災警報器を発売」
https://news.panasonic.com/jp/press/jn200930-4
なぜIoT化が視野に入るのか
住宅用火災警報器は消防設備ではないものの、今後自動火災報知設備を始めとする消防設備においても、そのIoT化は進むと想定される。ここでは、その理由について考察したい。
消防設備業は、非常に人工の色合いが強い業態である。なぜなら、消火栓等の消火設備管理はおおよそ水か粉を利用するものが多いことから、人力での対応が少なからず要求されるためである。その一方、現状消防設備点検のカバー率は必ずしも100%近く十分にいたっているとは考え難い。人口減少が間違いなく訪れ、消防設備点検にかかわる人が不足しているといわれる足元の日本の状況を鑑みると、自動火災報知設備や誘導灯のような、電気が関わりコントロールがソフトウェアで行いやすい消防設備に関しては多かれ少なかれIoT的な規格品でコントロールを行う未来が予見される。すなわち、一個一個点検業者がすべてを点検して回るということがいつまで続くのかは限りなく怪しい状況だと言える。IoT的機器の導入とその機能向上によって、ある程度そのメンテナンス作業は緩和、もしくは簡易化していくと考えるのが妥当であろう。
なぜ普及しないのか
そのような理屈を考えると、間違いなく火災感知器のような比較的シンプルなツールにおいて、なぜ未だに普及が進まないのであろうか。いくつかの理由があると考えられるが、それも比較的シンプルな理由であろう。思うに、①そもそも既存の火災報知器の取り換えタイミングでないのに買える理由がない、②若干高い、③それを用いた管理ノウハウの不足、といったところではなかろうか。①はいうまでもなくファシリティマネジメント業務である消防設備点検において既存設備が動いているにも関わらずそれを変更する理由は何もない。少なくとも数年間動く耐用年数の間はそれを使いたいというのは自然な発想である。②についてはよく聞かれる問題である。つまり一つ二つならばまだいいが、規模が大きい建物において、数を導入することなどを考えるとその差がかなり大きくなることは言うまでもないということであろう。そして、③はもっとシンプルな話で、それらのツールを導入しても、現場にそのツールを生かす体制が整っていないということである。IoT化がすすみHEMS,BEMSの色合いが強くなるということは、よりIT化が進むということである。消防設備業界は、やはりその点に人材や体制面での強みを持ち合わせているとは言えないのではなかろうか。
間違いなく普及するであろう理由
それにもかかわらず、ここではやはりこの傾向が間違いなく今後も進んでいく理由を考えたい。それは結局のところ①人手不足、②その他設備のスマート化、③企業収益的な合理性ということであろう。①は言うまでもなく、今後も人手不足が慢性化する日本においてそれを解決するためには、ある程度の対応案としてデジタル化が必須になるということである。そうでなければ、結局のところ既存の建物のメンテナンスすら難しかろう。次に②としてはビルにせよアパートにせよ、今後の住居はよりスマート化がすすむことは間違いない。それは必ずしも一戸一戸の家だけでなく、街単位での変更が促されることを指し示していると考えられる。それを鑑みると、それらの機能がシームレスにつながるためには必須の事情と言わざるをえないのではなかろうか。最後、③について、これは①にも少なからず関わるのであるが、結局何個もある火災報知器を全て人が回るという現行の仕組みはあまりに非効率的である。少なくとも現行の稼働状況をIT的な検査や確認でスクリーニング化し、その上で対応要否が高そうな箇所のみに人力を割いてしっかりと確認していくということが今後必須であろう。
アドレス付感知器など、既に人の手による定期的な点検を必要としない火災報知器は一部では導入され始めているものの、普及するにはまだまだ時間がかかりそうな状況である。消防設備は人命に関わる重要な機器であり、それを鑑みると必ず人の手により動作確認をするべきという声があがることは理解できる。しかし、現実的に何件もの建物がそのような点検を入れていない現況において火災報知器の導入とメンテナンスの敷居を下げることでその方向性を促し、合理的で妥当性のある枠組みを今後も構築していくことが重要ではなかろうか?
米国の事例
最後にアメリカの先進事例として一社、当該内容を約10年前から進めている企業を紹介したい。こちらについてはまた別途記事にしようと考えているので詳細は省くが現行はGoogleに買収されスマートホームの中核となりつつある。日本の火災報知器事情や実態を踏まえてこのような未来を描ける装置とサービスがもとめられるのではなかろうか。
参考
Gigazin「Googleがスマート火災警報器「Nest Protect」の開発元を3300億円で買収」
https://gigazine.net/news/20140114-google-buy-nest/