消防計画とは火災をはじめとする災害による被害を防ぐために防火管理者が作成しなければならないルールである。作るときには、見本となるものを用意して消防署と話し合うのがおすすめ。届出して終わりでは意味がなく、本当に必要な災害対策を「計画」できるかどうかが重要である。
消防計画とは
消防計画とは、災害(主に火災)の被害を最小限に食い止めるために、予め定めておく建物のルールのことである。似た言葉として「防災計画」というものがある。防災計画は広い意味で使われるため、一概には言えないが、通常は災害対策基本法に基づく地方自治体が制定する災害対策ルールのことであり、民間に対する法的な要請ではない。とは言え、企業が予見しうる災害への対策を講じず、従業員や客に被害を与えれば、安全配慮義務違反や過失と見なされる判例は存在している。そうならないために、独自に災害対応のマニュアルを作成する企業は多いが、そういったマニュアルを含めた企業の災害対策を一括にして「防災計画」と呼ぶ場合がある。
一方で消防計画は、官民問わず、建物の責任者に対して法の要請から課されるもので、防災計画とは似て非なるものである。防火管理者はこれを作成し、管轄消防署に届出する義務がある。防火管理者については、別記事『防火管理者に選ばれたら』で説明しているので、知らない方はまずそちらを読んだほうがいいだろう。
さて、消防計画の法律上の根拠は『消防法施行規則第三条』に見られる。同法に規定されている、肝心の計画の中身はというと、
消防計画の適用範囲
管理権原者及び防火管理者の業務と権限
管理権原の及ぶ範囲(管理権原の分かれている防火対象物の場合)
防火管理業務の一部委託
火災予防上の自主検査
消防用設備等の点検・整備
避難施設の維持管理
防火上の構造の維持管理
火気の取扱い
放火防止対策
収容人員の適正管理
工事中における安全対策
防火・防災教育
自衛消防活動
自衛消防の組織
自衛消防訓練の定期的な実施
地震、大雨等の発生時の自衛消防対策
営業時間外等の防火管理体制
消防機関との連絡等
並べるとこの様になる。建物の規模に応じてやらなくても良い項目もあるが、防火管理者はこれらを一つ一つ計画書に落とし込んでいく必要がる。ここまで説明し、「わかった、作ろう」となる人はいないだろう。なんとなく定めなければならないことは理解できたとしても、具体的に何をどう決めればよいのかわからないはずだ。では、消防計画を作らなければならない状況になったとき、どうすればよいのか。
実際に消防計画を作るにあたって
まず、あなたが誰かの代わりに防火管理者として選ばれるのであれば、以前の消防計画が存在しているはずなので、それを探そう(なければ違法状態である)。それを管轄の消防署に持っていき、現在も通用するのかどうかを確認する。ここでは詳しくは触れないが、建物の規模によっては統括防火管理者という複数の防火管理者を取りまとめる役職の人とコンタクトを取る必要が出てくるかもしれないが、そのことも含めて消防署はあなたがどうすればよいかを教えてくれる。
消防計画を大きく作り直さなければならない場合、もしくは防火管理者を引き継ぐケースではない時は、消防計画の見本や叩き台となるデータがないか管轄の消防署に問い合わせよう。消防署もこのわけのわからない計画書をみんなが作りたくないと思っていることは重々承知なので、公開されていなくても作成を手助けするデータが存在している場合が多い。インターネットで探してもいいが、管轄の消防局が発出しているものでなければ、そのまま受け取ってくれない場合があることには注意すること。ちなみに防火管理者講習のテキストを見ながら自力でゼロから作成するのはおすすめしない。この記事を読むような方は防火管理に不慣れだろうから、時間だけかかってしまう可能性が高い。繰り返しになるが、消防計画は建物の構造や事業内容により個別に考えなければならないため、まずは、自分が作る消防計画は何かを把握したほうがいい。そのためにも消防署に問い合わせて指示を仰ぐこと。
本当に役立つ消防計画を
おそらく、消防署に言われるがまま叩き台データの穴を埋めていけば消防計画はできあがり、届出義務も完了となるだろう。しかし、それだと消防計画は大抵有名無実化する。重要なのは、あなたのいる建物が本当に災害の被害を最小限に食い止められるかどうかだ。残念ながら、消防計画を届出すること自体に防災効果は殆どない。そう言った意味では、消防計画は作ることより作った後の方が重要である。叩き台となるデータを使うように言うのは、所定の手続きは早く終わらせて、本当に役立つことに時間を割いてほしいからである。結局の所、普段から整理整頓をして火の元に注意してれば人為的な火災以外はだいたい防げる。せっかく防火管理者になったのなら、その意識を仲間内で共有することに時間を使ったほうがいい。
ただ、地震や水害対策は計画という形でしっかりと対策しておくと有事の際に非常に役に立つので、是非そちらは真剣に検討してみてほしい。ちなみに東京都は2011年の東日本大震災を契機に、東京都震災対策条例を制定し、地震対策についてもあらかじめ定めておくよう事業所に呼びかけている。こちらについては罰則規定は存在しないが、「計画」としては本当に役立つため、東京都以外に住まわれている方も、是非取り入れていただきたい。事業者であれば、BCP(事業継続計画)に関わる側面も持つことになるだろう。
あなたにとって何が重要なのか。いざというとき責任を取らされるのは、届出を受理した消防局ではなく、防火管理者である。
参考
医療経営情報研究所 (編集)「病院・介護施設のBCP・災害対応事例集」経営書院