新型コロナウイルスの流行により、各企業はリモートワークを推進している。それと同時に、リモートワークで人員管理が一様でなくなったことから、これまでのオフィス防災のあり方も変わろうとしている。企業は現在の少ない人員や流動する人員でも実行可能なコンパクトな防災計画を策定を検討すべきであろう。
新型コロナが生む、新しい働き方
新型コロナのパンデミックで労働環境が大きく変容した。企業は通勤者の数を制限し、Web会議サービスの利用者は爆発的に増加した。奇しくも先進諸国と比べ遅れていると言われていた日本のIT化の流れが、今回のパンデミックで進んだのだ。そういった意味で、皮肉にも新型コロナウイルスは、日本政府の望む形とは別に、働き方改革を推し進めたのである。
新型コロナウイルスの流行で、人とのリアルな接触が制限されたことから、企業もリモートワークを推進する動きを取り続けている。リモートワークによって恩恵を受ける企業と受けない企業、業種によってまちまちではあるが、オフィスビルに通う人数が減ったことは共通して言えるであろう。リモートワーク推進の結果、オフィスの移転や退去により固定コストを削減する企業は続々と現れている。仮に新型コロナのワクチンが劇的な効果を見せ、かつてのように人とのリアル接触を気にする必要がなくなったとしても、リモートワークの利便性を知ってしまった企業は以前のリアル接触型ビジネスにそのまま戻るとは考えにくい。コンパクトかつ賃料の安いオフィスを構えようとする企業もこれからはますます増えるであろう。
リモートワークで防災の何が変わるのか
このようにオフィスのあり方自体が変化していく中、防災の側面ではどのような問題が考えられるのか。
オフィス防災で大きく影響を受けるのは、これまでの防災対策の抜本的な見直しを迫られる点にある。オフィスのあり方が変わったのであれば、当然そこに基づく種々様々な計画やルーティーンを変更する必要が出てくる。その一部にBCPを始めとする防災対策も含まれる、ということである。
たとえば、オフィスが地震に遭遇した時、備蓄品や防災資器材を管理している防災担当がリモートワークで出社していないとなると、別の誰かがその対応をしなければならない。商業施設であれば客の避難や安全管理をする義務も発生するが、緊急時なのに、担当者がいなくてわかりませんと客に言うことはできない。
新型コロナに対応する業務スタイルを各企業は確立してきているところであるが、災害という非日常のことまで含めて準備している企業は多くないであろう。幸いにも、現在新型コロナ流行下において、大型地震が都市部を直撃し交通機関が麻痺するような事態は発生していない。しかし、いつ来るとも知れない災害に備られるのであれば、検討し実行するべきであろう。そうしなければ、新型コロナと自然災害の相乗効果で大きな被害を受けてしまう可能性は捨てきれない。
防災マニュアルのアップデートを
各企業は既存の防災マニュアルを見直し、リモートワークに即した新たなマニュアルを策定し直すべきであろう。特に人員配置で大きな変更が生じるはずだ。
リモートワークで各企業のオフィス勤務人員は減っている。その企業が、かつてのような大きな計画を実行しようとすれば必ずその計画に綻びが生じてくる。たとえば、大企業や大きなビルにテナントを借りている企業の場合、防災に備える意味でのマニュアルが設定されているはずである。そこには、災害時に取るべき行動や要員について定められているが、リモートワークによりで規定されている要員に欠員が生じている場合が多い。確実にいる社員だけで人員配置を組むのか、それとも、人員が入れ替わっても実行可能な計画に作り直すのか、取りうる選択肢はそう多くないはずだ。
できることなら、少ない人員でも対応できるコンパクトな防災マニュアルを作ったほうが良い。有事の際に本当に効果を発揮する可能性が高いからだ。もちろん、これらは一概には言えない。大規模商業施設の防災対策は必然的に多人数を巻き込んだ計画になるはずだし、都会の高層ビルも同様である。しかし、企業がリモートワークにより、所有する空間を減らしたのであれば、それに対応する計画諸々も小さくまとめることはできるだろう。それにより、大きく難しい防災対策は減り、実行力のある小さく確実な防災対策が作れるはずだ。そうなれば、企業は無駄に大きい対策に貴重なリソースを割くことなく、別の重要事項にリソースを振り分けることもできるだろう。