設備 最終更新日: 2023年08月26日

泡消火設備概要

泡消火設備は水による消火が適さない火災を対象とした泡による消防用設備である。身近なところでは地下駐車場によく設置されている。大型かつ複雑な機構の消防用設備であるため、保守管理全般を点検業者に任せきりになってしまう傾向にあるが、建物の所有者等は防火防災の最終責任者という立場から、適切な維持管理がなされているかを正しく把握し、防火管理者はその使い方を熟知するとともに、入居者等への説明も合わせて実施すべきである。

泡消火設備とは

泡消火設備とは、水と薬剤を混合させ作成した泡で火炎を鎮圧する消防用設備の一つである。泡消火設備は、引火性液体のような水による消火方法では適さない火災を主な対象とし、一般的に駐車場や危険物取扱施設、空港等に設置される。水と消火薬剤を混合した水溶液を泡放出口より空気を含む泡として散布し、燃焼面を覆い空気を遮断する窒息効果と泡そのものの冷却効果により、効果的に火災を鎮圧することができる。

図1 水と泡を混合させたエアフォーム

泡消火設備はその性質上、多数の設備によって構成されており、大型化する傾向がある。具体的には水源・ポンプ装置、原液槽、混合器、配管、発泡ヘッド、制御盤等がある。

泡消火設備はその仕組みから「固定式」、「移動式」及び「泡モニター式」に大別される。固定式は発泡ヘッドの位置が固定のものであり、スプリンクラーを想像していただければわかりやすい。移動式は、屋内消火栓のようにホースとノズルが格納されたボックスから、人力によってホースを延長し消火対象に向かって発泡できるものである。泡モニター式は射程距離のあるノズルを使用し、遠方から消火対象物に向かって泡を放出する。

建物を建築したあとで追加工事をすると大工事は避けられないため、予め使用目的を定めた施設に設置し、壊れない限り何十年も使用し続けるというのが通常である。一応ラインプロポーショナーという混合装置と、水源と薬剤、ポンプ装置、ホース及び発泡ノズルを用意すれば泡の作成自体は可能だが、泡消火設備としては認められないため、油火災対策に用意するとしても自主的な設置の範囲にとどまる。

固定式泡消火設備の仕組み

ここでは地下駐車場等でよく見られる、固定式泡消火設備の仕組みについて解説する。説明にあたり、下の図を参照していただきたい。

図2
https://www.moritamiyata.com/products/equ01/subequ05/eq-06.html

泡消火設備が作動する仕組みとして、まず感知用スプリンクラーヘッドが火災を感知するか、随所に配置された手動起動装置を操作することにより泡消火設備配管内の圧力が低下し、消火ポンプが起動する。消火ポンプは水源から水を吸い上げ、加圧された水は配管内を上昇していく。その際、プロポーショナーにより配管内で薬剤がと水が混合し、混合液は最終的に発泡ヘッドの網目から噴出することで泡となって火炎を覆う。これがおおまかな泡消火設備の仕組みである。

広い地下駐車場では消化する区画が分かれており、感知用スプリンクラーヘッドが火災を感知した場合は問題ないが、手動起動装置から起動した場合には、火炎のある場所に適合した区画の手動起動装置を使用しないと意味がない。それぞれの区画には色で分けられており、発泡ヘッドの付け根や、手動起動装置付近、一斉開放弁にその色が付けられている。しかしながら、火災が発生した場合にそれぞれの色を冷静に確かめられる人はごく僅かであると思われる。だから、火災時には火炎に一番近い起動装置を操作すれば概ね大丈夫である。また、余談であるが、時々地下駐車場で車両が追突事故を起こし、地下駐車場に泡が撒かれるというニュースが流れるが、泡が撒かれる原因のほとんどは、手動起動装置に車が接触することから発生しているものである。

図3 一斉開放弁

泡消火設備の一斉開放弁。本体の色と発泡ヘッドが水色に塗装されている。

図4 手動起動装置
図5 手動起動装置(開放)

蓋を開けた状態。パイプ脇にコックがあり、それを操作すると起動する。起動装置の上部には水色のマークがある。この手動起動装置が、上の一斉開放弁付近の区画に対応しているということを意味している。

図6 一斉開放弁

黄色に着色された一斉開放弁。水色の区画とは別区画の泡消火設備である。

泡薬剤の種類

泡消火設備で使用できる薬剤は、規格省令「泡消火薬剤の技術上の規格を定める省令」に適合した検定品を用いる必要がある。各メーカーから様々な製品名で薬剤が発売されているが、その種類を大きく分けると以下の3つである。

①たんぱく泡消火薬剤

加水分解した動物性たんぱく質を基剤としており、他の薬剤より耐熱性に優れている。反面、粘性が大きく泡の流動性に劣る。主に危険物取扱施設に使用される。非常に臭い。

②合成界面活性剤泡消火薬剤

合成界面活性剤を基剤とするもので、経年変化が少なく、流動性及び展開性に優れるというメリットをもつ。デメリットとして、耐熱性及び泡の安定性が低く、耐油汚染性でも劣るため他の薬剤より消火性能は低く定められている。メリットを活かす形として、主に高発泡用泡放出口で使用されるケースが多い。

③水成膜泡消火薬剤

フッ素系界面活性剤を基剤とする薬剤で、流動性に優れることから、油面上に水成膜を作り長時間にわたり安定性のある消火能力を発揮する。主に駐車場の泡消火設備に使用される。

図7 水成膜泡消火薬剤

これら薬剤はメーカーや泡消火設備の種類によって使用できるか否かがそれぞれ定められているため、建物の関係者が希望して薬剤を変えられるものではない。一般的にポンプ室に交換用薬剤が蓄えられているため、防火管理者や建物の所有者等は、その維持管理状況がどうなっているのか、把握しておいたほうがよういであろう。

まとめ

泡消火設備はメーカーによって形や構造が様々であるため、点検整備には特定のメーカーに通じた高い知識と豊富な経験が必要である。万が一、点検時に人為的誤作動を起こしてしまい泡が放出され、建物住民や訪問客に損害を与えた場合、賠償金が高額にもなりかねないため、点検業者の選定は慎重に行うべきである。また、その複雑な構造と設備の大きさから、詳細をすべて点検業者に任せてしまう管理者は多くなりがちであるが、建物の安全に関する最終的な責任者は建物所有者等の関係者にあるため、自身でも維持管理状況の把握や、設備の使用方法についても知っておく必要があるだろう。

参考

オーム社編『ラクラクわかる! 2類消防設備士集中ゼミ』オーム社

「泡消火薬剤の技術上の規格を定める省令(昭和五十年自治省令第二十六号)」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=350M50000008026