令和3年度の介護報酬改定にて注目された自然災害BCPについて、押さえるべきポイントを解説する。自然災害BCPにおいては、災害時でも業務への悪影響を最小限にすることが最重要事項であり、事前・平時に分けて対策を講じる必要がある。そして効果的なBCP策定のためには、「情報・対策のアップデート」が不可欠である。
はじめに
そもそもBCP(事業継続計画)とは、「企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画」を指す。
つまり、BCPにおいては、自然災害のような非常時であっても可能な限り業務遂行が不可能な時間を低減させることが何よりも重要ということである。この点が、同じように災害対策を目的としている防災計画と大きく異なっている。
「どうすれば災害時でも業務への悪影響を最小限にできるか」ということを常に考慮することが、自然災害BCPでの最重要事項である。
ステージごとの対応
自然災害BCP策定においては、上記で述べたように業務への影響を最小限に留めるために、ステージ(時系列)に応じた対策をそれぞれ練っておくことが必要である。
1. 事前に考慮しておくべき事項
a. 推進体制
平時にどのような体制で災害対策推進するのかを検討する。
災害対策は常日頃から継続して取り組む必要がある。
また災害対策の推進には、総務部などの一部門のみで進めるのではなく、多くの部門が関与することが求められる。
b. リスクの把握
i. ハザードマップ
施設・事業所が所在する自治体のハザードマップを確認する。自治体などが公表するハザードマップなどを確認し、これら災害リスクを把握したうえで施設に応じた対策を検討することが求められる。震度分布図、津波や浸水深想定、液状化の想定など様々なハザードマップが提供されており、 一通り確認しておくことも重要である。
ii. 被災想定
自治体から公表されているインフラ等の被災想定を整理することも有効である。
c. 優先業務の選定
i. 優先事業
複数の事業を運営する施設・事業所では、どの事業(入所、通所、訪問等)を優先するかを法人本部とも連携して決めておくことが求められる。
ii. 優先する業務
被災時に限られた資源を有効に活用するために、優先する業務を選定しておく。業務に最低限必要な人数についても検討しておくと尚良い。
d. 研修・訓練の実施、BCP の検証・見直し
作成した BCP を関係者と共有し、平時から BCP の内容に関する研修、BCP の内容に沿った訓練を行う。また、最新の動向や訓練等で洗い出された課題を BCP に反映させるなど、定期的に内容の見直しを行うことも重要である。
2. 平時の対応
a. 建物・設備の安全対策
i. 人が常駐する場所の耐震措置
建築物の建築年を確認し、新耐震基準が制定された 1981(昭和 56)年以前の建物は耐震補強を検討する。
ii. 設備の耐震措置
- 居室・共有スペース・事務所など、職員、入所者・利用者が利用するスペースでは、設備・什器類に転倒・転落・破損等の防止措置を講じる。
- 不安定に物品を積み上げず、日ごろから整理整頓を行い、転落を防ぐ。
- 破損して飛散した場合に特に留意が必要な箇所(ガラス天井など)や避難経路には飛散防止フィルムなどの措置を講じる。
- 消火器等の設備点検及び収納場所の確認を行う。
iii. 水害対策
以下の点を考慮する。
- 浸水による危険性
- 外壁にひび割れ、欠損、膨らみはないか
- 開口部の防水扉が正常に開閉できるか
- 暴風による危険性
- 外壁の留め金具に錆や緩みはないか
- 屋根材や留め金具にひびや錆はないか
- 窓ガラスに飛散防止フィルムを貼付しているか
- シャッターの二面化を実施しているか
- 周囲に倒れそうな樹木や飛散しそうな物はないか
b. 停電時の対策
自家発電機が設置されていない場合、電気なしでも使える代替品(乾電池や手動で稼働するもの)の準備や業務の方策を検討する。自家発電機が設置されている場合、使用方法の確認やカバー時間・範囲を確認し、電気を使用する設備を決めた上で優先順位をつける。
c. ガスが止まった場合の対策
カセットコンロは火力が弱く、大量の調理は難しい。それらを考慮して備蓄を整備することが必要である。プロパンガス、五徳コンロなどでの代替も考えられる。
d. 水道が止まった場合の対策
「飲料水」「生活用水」に分けて、それぞれ「確保策」「削減策」を検討する。
i. 飲料水
飲料水用のペットボトルなどは、運搬の手間を省くためあらかじめ居室に配布するなども考えられる。飲料水の備蓄では、消費期限までに買い換えるなど定期的なメンテナンスが必要である。
ii. 生活用水
対策は「水を使わない代替手段の準備」が基本である。トイレであれば簡易トイレやオムツの使用、食事であれば紙皿・紙コップの使用などが代表的である。「入浴」は優先業務から外すことで、生活用水の節約にもつながる。給水車から給水を受けられるよう、ポリタンクなど十分な大きさの器を準備しておくことも重要である。
e. 通信が麻痺した場合の対策
被災時は固定電話や携帯電話が使用できなくなる可能性があるため、複数の連絡手段で関係機関と連絡が取れるように準備する。
整備した緊急連絡網はいざという時に活用できるよう、定期的にメンテナンスを行う。
f. システムが停止した場合の対策
手書きによる事務処理方法など、電力供給停止などによりサーバ等がダウンした場合の対策を記載する。 浸水リスクが想定される場合はサーバの設置場所を検討する。データ類の喪失に備えて、バックアップ等の方策を記載する。
g. 衛生面(トイレ等)の対策
簡易トイレの設置方法、汚物の一時的な保管方法、消臭固化剤の使用方法などを検討する。
h. 必要品の備蓄
備品リストの作成・管理、在庫量、必要量の確認を定期的に行う。
i. 資金手当て
緊急時に備えた手元資金等を管理する。地震保険、火災保険についても補償条件等を確認する。
むすび
以上、自然災害BCPでのポイントを解説したが、効果的なBCP策定のために何より大切なのは「情報・対策のアップデート」である。常に最新の情報に触れ、必要に応じて対策に反映させ続けることが、BCPの本髄と言える。 今後も災害BCPの関連情報に注目したい。