誘導灯は災害時に避難口を指し示す消防用設備である。建物の用途によって設置個数やその種類は変わるが、一般的に衆人が集まる施設は設置する要がある。消防用設備であるため、6ヶ月に1度の点検は必須となっており、その報告義務も課されている。
誘導灯とは
誘導灯とは、火事や災害が発生した際に、建物内の脱出経路を照明によって指し示す消防用設備である。設置根拠法令を消防法施行令第26条としており、同法で設置が必要な建物について定められている他、各地方自治体の火災予防条例でその細部について規定されている(東京都は火災予防条例第45条)。消防設備であるため、定期的な点検とその報告が義務となっている。消火器と並んで見覚えのある消防用設備の筆頭であるが、その使用目的及びサイズは細分化されている。使用目的に則した誘導灯の種類は以下のとおりである。
①避難口誘導灯
避難出口の場所を示す誘導灯である。緑色が多くを占めており、不慣れな場所で災害に遭遇した際は、これを目標にして逃げるのが有効な使い方となる。
②通路誘導灯
避難出口への方向を指し示す誘導灯である。白色の背景に緑色の矢印で避難経路が指し示されている。矢印に従って進むと①避難口誘導灯が現れる仕組みとなっている。
③客席誘導灯
映画館等の暗い場所に置いて、足元を照らすため低い位置に設置されている誘導灯。①、②と違い、誘導灯らしい見た目ではなく、一見ただの照明であるが、こちらも立派な消防用設備である。
④階段通路誘導灯
屋内階段の踊り場等でよく見かける照明である。客席誘導灯と同じく、誘導灯のような見た目をしていない。また、後述する「非常用照明器具」と必然的に用途が被るため、そちらで代用可能な場合がある。
設置すべき誘導灯のサイズは主に建物の用途や床面積によって判断される(簡単に言えば、広くて人が大勢いる場所には大きな誘導灯が必要になる)ものであるため、ここでは割愛させていただく。
誘導灯と似た設備として、「非常用照明器具」がある。こちらは、消防法ではなく建築基準法を設置根拠とするものである。誘導灯が避難経路の目印になるのに対し、非常用照明器具は、経路を明るくし、避難そのものを行いやすくする目的とするところに違いがある。法律上は別の設備であるため、その点検方法及び点検実施者にも違いはあるが、建物の管理者はどちらも適切に管理し、有事の際に備える責任を有している。
設置基準
誘導灯の設置基準を漏れなくダブりなく説明するのは難しい。なぜなら、建物の形が一つ一つ違うように、設置を要するかどうかは個別に判断される必要があるからである。しかし、それでもおおまかに分けるのであれば、「不特定多数の人間が集まる場所、もしくは地下や11階以上のフロアには誘導灯が必要」ということになる。とは言え、消防隊が侵入できる有効な開口部(大きな窓等)がないフロアは無窓階、言わば地下のような扱いとなり誘導灯が必要となるため、やはり一概には判断できない。また、先述したとおり、消防法施行令では誘導灯の設置要件を、なによりもまず建物の用途で判断するため、建物の面積等は二の次になる。裏返せば、ごく一部でも建物の用途を変えるならば設置しないと違法になることがあるため、不用意な用途変更は危険である。たとえば、共同住宅の一室を民泊として使用する場合、それまで必要ではなかった誘導灯が必要となるケースなどが挙げられる。なお、誘導灯を必要としない場合でも誘導標識、すなわち電源を要しないただのプレートは必要となる場合は多いため、具体的に必要な設備及びその数は消防設備の業者や消防署等の専門家に話を聞くのが無難である。
機器点検について
ここでは、6ヶ月に1度行われる消防用設備機器点検のうち、誘導灯に関する部分について述べる。機器点検や、点検実施者の要件については、以下参考記事を参照していただきたい。条件さえ整えば、特別の資格がない防火管理者や建物のオーナーでも点検は可能である。
参考
消防用設備とは
点検は、「外観、非常電源、ランプ、点検スイッチ(古いものは紐式)、ヒューズ、接続状態」等のチェックを行う。有事の際に機能するかどうかを確認するために、点検スイッチもしくは点検リモコンを使用することになる。それらを使用すると、非常電源のチェックを行うことができ、停電時でも有効に活用できるかどうかがわかる。点検スイッチの脇には誘導灯の状態を示すランプが設けられており、その点灯状態によって誘導灯の良・不良がわかる仕組みとなっている。
最近の誘導灯はランプにLEDを使用し、蛍光灯を使用する従来のものと比べ小型で長寿命というメリットがある。とは言え、ランプの交換時期は約6年と、一度着ければほぼ交換不要と言えるほどの寿命ではない点には注意していただきたい。よく赤いランプが点滅している誘導灯を見かけるが、一般的にこれはLEDの交換時期を示すランプである。実際には点滅後もしばらくは使えるのだが、それを放置して有事の際に使用できないと防火管理者や建物のオーナーは管理責任を問われることになるため、後回しにせず交換したほうが良い。
外観は見ればわかるとして、主要な点検は先のスイッチやリモコンにより行うことができるので、誘導灯の機器点検自体はそう難しくはない。ただ、不具合があった場合の対応や、建物には誘導灯以外にも消防用設備が備わっていることを考えると、まとめて専門の業者に依頼したほうが楽であろう。とくに、建物や施設の規模が大きければ必然的に誘導灯の数も増えることになり、古い建物では誘導灯の故障やランプの交換時期にもばらつきが出てくることになる。仮に誘導灯の点検のみ自力で行い、その分料金安くしてくれる消防設備点検業者がいたとしても、正直それほど大きな値引きは期待できない。それでも少しでもコストカットを、と考えるのであれば、防火管理者と相談の上、無理のない範囲で点検するものいいだろう。自分で点検を行うことで、設備への理解が深まり、施設の安全管理に対する意識向上という副産物が得られるかもしれない。
参考
一般社団法人日本照明工業会「点検者様向け情報」
https://www.jlma.or.jp/anzen/bousai/tenken.htm