消火器は誰もが知る消火器具であるが、業務用の消火器はれっきとした消防用設備であり、点検と報告の義務が生じる。また、扱いやすく、消防用設備の中では回転が早い部類に入るせいか、度々の法改正により、設置要件やその性能が変わっている消防用設備である。開封を要しない機器点検は消防設備の点検資格者でなくともできる内容なので、法律の許す範囲において自力で点検するのも良いだろう。
消火器とは
消火器は人の手により初期消火を行う器具で、消防用設備のうちの一つである。法律上の位置づけはさておき、日本で最も知られている消防用設備であろう。初期消火のためという用途に違いはないものの、一口に消火器と言ってもその種類や設置場所の条件にはいくつかの規定が存在する。消火器の購入を検討している方やその維持管理にお悩みの方にとって、本コンテンツが役立ってくれれば幸いである。
まず、消火器は「業務用」と「住宅用」の二種類に大別される。日本において消火器を設置しようとした時、何よりもその設置場所と目的に則した種類の消火器を用意する必要がある。要点を述べるならば、「業務用」は消防法等の要請に基づき設置する必要がある場合に選ぶべきで、「住宅用」は個人が自宅で有事の際に備えて用意する場合に選択すべきである。業務用は性能もさることながら、誰が見ても消火器とわかるように、容器全体の最低25%は赤色に塗装しなければならないなど、厳格な規定が存在する。一方で、個人が念のためにと用意する住宅用消火器は業務用ほど厳格な規定はなく、最近では無印良品でシンプルな見た目のものや、消防用設備製造大手ハツタからはハローキティの消火器などもラインナップされている。
業務用消火器は、その性能によって消火対象を3つに分けている。それぞれ「普通火災用」、「油火災用」及び「電気火災」用となっている。とは言え、いずれの消火対象にも使用できる消火器が一般的であり、各社から多数の製品が市場に出ているため、とりあえず全種対応の消火器を用意するのが一番無難ということになる。消火器がどの消火対象に対応しているかは、消火器の表面をみればすぐに判断できる。赤、黄及び青とその中の絵柄でその消火器が有効な消火対象がわかる。なお、古い規格の消火器には絵柄が描かれておらず単に「普通、油、電気」と書かれている場合があるが、その規格の消火器は2011年に改定された消火器の規格省令に基づき2021年12月31日までしか使用できない。もし、そのタイプの消火器を使用されている方がいたら、近いうちに新規購入をする機会がくるだろう。なお、価格は1本3,000〜6,000円といったところが相場である(2021/02/08現在)。
設置基準等
消火器の設置対象物は消防法施行令第10条に定められている。設置を必要とするかどうかは、建物の用途と面積に依存することになるが、人の手による初期消火を目的としていることもあって個人住宅を除き殆どすべての防火対象物で設置を必要とされる。たとえば、共同住宅の設置要件は、他の防火対象物と比べて要件が緩い方なのだが、延べ面積が150㎡あるだけで設置義務が生じる。また、業務用の消火器はその性能によって消火能力の単位が定められており、消火単位の高い消火器であれば、建物に必要とされる消火器の本数を減らすこともできる。消火器に限った話ではないが、どの消防用設備がどれだけ必要であるかを一概にまとめるのは難しい。なぜなら対象建物の用途と面積によって個別に判断される必要があるからである。自身が設置を検討している建物に、何本の種類の消火器が必要になるかは消火器製造大手ヤマトプロテックのサイトがわかりやすい。リンクを掲載するので、気になる方はそちらを参照していただきたい。
参考
ヤマトプロテック株式会社
https://www.yamatoprotec.co.jp/contents/kijun/syoukaki/
なお、設置を検討する場所が共同住宅の共用部であるからと言って、住宅用消火器を設置するのはNGである。共同住宅に予め備えておかなければならないのは消防法による要請のためであり、設置が認められる消火器は業務用のみとなる。
飲食店の消火器設置及び点検報告の義務化について
2019年10月1日の消防法施行令改正に伴い、調理を目的とした火を使用する設備又は器具を設けた全ての飲食店はその専有面積に関わらず消火器の設置及び点検報告が義務化されたため、ここではそれについて述べる。
この改正は文字通り飲食店での火災が後を絶たないことから改正されたものであるが、消火器を設置すればそれで終わりということではなく、業務用消火器の設置に伴い必然的に6ヶ月に1回の点検と、1年に1回の報告も義務化されているため、飲食店にとっては継続的な負担が増える内容となっている。設置義務を免除する条項もあるにはあるが、火を使うガスコンロ等に「①調理油過熱防止装置、②自動消火装置、③圧力完治安全装置のような火災の発生を予防または被害の軽減を図る装置」のいずれかが必要なので、現実的には対象外の店舗が多いだろう。
基本的に防火管理は誰しもがやりたくないが、やらざるを得ない側面が多分に強いため、消防法が改正された後でも点検報告は滞りがちである。テナントの一部を飲食店とする建物では、おそらく統括防火管理者が選任されているだろう。彼等統括防火管理者は各テナントに対し適切な防火管理を指導する責任があるため、他人事と捉えてはいけない。単に法改正を知らない事業者も多いため、統括防火管理者はテナントの防火管理状況の確認と合わせてそのことを知らせてあげるとよいだろう。建物の安全は自分たちで守るという意識のもと、建物のオーナー等は入居者が営業しやすい環境を整えていくことも、テナント入居者の満足度を高め、建物の価値を上げることに繋がってくる。
機器点検について
消火器も消防設備である以上、6ヶ月に1回の点検と定期的な報告が法定義務である。消火器は製造後5年が経過したら圧力を抜き内部確認する必要があるが、それまでの機器点検であれば、とくに難しい点検ではない。条件さえ満たせば特別な資格のない人でも点検は可能である(条件については、「消防用設備とは」を参照)。もちろん、消防設備の点検業者に依頼するのが確実ではある。費用はかかるが、しっかりと点検の資格をもった人間が点検を行う上、先述した消防法の改定等にも迅速に対応できて、知らぬ間に違法状態などということはない。しかし、開封を要しない消火器の点検は特別な器具を必要とせず、ポイントさえ知っていれば誰でもできるレベルなので、コスト削減のために自力で行うのは十分検討に値する。以下では、点検のポイントの要点を絞って解説する。
①全体の外観を見る
まずは全体の外観を見る。多少の汚れや塗装の剥がれは珍しくない。ここで問題となるのは、誰が見ても明らかに「異常」とわかるものである。消火薬剤の漏れ、打痕、変形、腐食、ホースのひび割れ等がないかを確認する。屋外の風が当たる場所に設置されていればそれだけ劣化は早くなるが、それでも異常が見つかる例の方が少ない。もしレイヤーを重ねたような錆やホースの千切れ等が見つかれば、すぐに交換をすべきである。
②圧力ゲージを見る
外観チェック後、まず始めに点検するポイントである。点検箇所で最も重要と言って良い。最近の消火器は蓄圧式といって消火器本体に圧力がかけられているものが殆どである。その圧力が規定値にあるかどうかを確認するためにキャップ付近に圧力ゲージが設けられているのでそこを確認する。異常がなければ、緑色の範囲内に矢印が入っているはずだ。もし緑色の範囲内に矢印が入っていなければ、その消火器は性能を発揮できないことになるので、業者に依頼して圧力を再充填してもらうか、買い換えるということになる。
③ピンを見る
消火器の上部には必ず安全ピンが付いている。ここに異常がないかを確認する。ピンの封印シールが外されていないか、ピンに変形はないかがポイントである。ここに問題があれば、その消火器は既に使用された可能性がある。圧力ゲージに問題がなければ、使用された可能性は薄いが、そのまま放置せずに業者に相談することをおすすめする。
④キャップの締め付けを確認する。
キャップががたついていないか、緩んでいないかを確認する。もし緩みがあると、点検時は圧力に問題がなくても、徐々に圧力が抜けていってしまう可能性があるので業者に確認を依頼すること。締め付けには専用のスパナが必要なので、工具がなければ自力で閉めるのは避けるべきである。
⑤点検日を記載する
最後に点検日を本体に記載して終了となる。点検日を記載する欄を設けたシールが発売されている他、本体に同梱されている場合もあるのでそれを使用する。正しく点検し、消防署に報告さえ行っていればこの記載がなくても違法となることはないが、消防職員による立入検査があった場合に、消防職員が確認するポイントとなるため、点検日の記載がないと「本当に点検してるんですか」、ということになる。点検後は作業の締めとして、必ず点検日を記載すること。
以上がおおまかな点検の流れである。消火器は設置されている数も多く、その分未点検の絶対数も増える。未点検の消火器の本数を減らすために、自身で点検できる範囲であれば、自身で点検するようにアナウンスしている自治体も多いので、自力で消火器の点検を行うことは別に悪いことではない。とりあえず自分で点検をしてみて、わからないことがでてきたら消防署や点検業者に相談するのもいいだろう。