建物管理 最終更新日: 2023年08月26日

消防法における建物の類別と収容人員の算定方法

本コンテンツでは消防法において、建物がどのように分類されているのか、建物内にどれだけの人数が収容されることになるのか、それぞれの規定について解説していく。防火管理者(そもそも防火管理者が必要なのかどうかも含め)や建物のオーナー等の関係者が、自身の建物にどのような防火防災上の義務が発生するのかを明らかにすることで、見落としによる消防法違反や、建物の安全性及び信頼性の向上に繋げるのが本コンテンツの主眼である。

消防法における建物の類別方法

一般の個人住宅を除き、殆どの建物には消防法上で様々な要請(人員、計画、設備等)がされており、違反すればその内容に則した罰則規定が存在するということをご存知の方は多いだろう。しかし、それぞれの要請が建物の用途や使用する人数等によって個別に決定されており、それらがどのように判断されるものなのかをご存じの方は少ないのではないか。建物の関係者が知らぬ間に消防法違反をしてしまい、建物の安全性と信頼性を欠くことの無いよう、何らかの参考になれば幸いである。

消防法の要請は、何よりもまず建物の用途から決まってくる。建物の作りや建物の使用者数も関係してくるが、それは後の話だ。簡潔に言えば、建物の使用方法が、災害時に避難が容易にできない人を収容するものであったり、多くの人間が集まる場所は、災害時の被害が大きくなると見なされ、消防法の要請は強くなる仕組みである。たとえば、自力避難が困難な入居者がいる老人ホームでは消防法の要請は最も強く、逆にただの倉庫であればそれほど強くない。これら建物の分類は消防法施行令の別表1に定められている。

図1

この別表を見ると、分類された建物は全33種類に分けられていることがわかる。消防関係者は消防法の話をするときに、建物の用途ではなくこの別表の番号で建物を呼ぶ時がある。たとえば、「5項ロ」と言えば、それは共同住宅を指す(消防法で、マンションやアパートは「共同住宅」という。また、寄宿舎や下宿は最近数が減っているので、5項ロと言えば専ら共同住宅のことを意味している)。あなたが所有している、もしくは関係している建物がレストランであればそれは3項ロであり、中学校であれば7項である。まず、この分類から消防法の要請はスタートすることになる。

また、これらの分類は2種類に大別される。すなわち「特定防火対象物」と「非特定防火対象物」である。特定防火対象物はいわゆる「不特定多数の人が使用し危険度が高い」と判断される建物で、非特定防火対象物はその逆である。当然、特定防火対象物の方が消防法の要請が強くなる。消防法では建物をこの2種類で分け、それぞれ違った義務が生じることになる。どの用途が特定防火対象物かそれとも非特定防火対象物であるかは、だいたい「不特定多数の人が使用するかどうか」で判断することができる。だいたいと言うのは、たとえば図書館は8項であり、不特定多数の者が使用するが、消防法上は「非特定防火対象物」となっており、多少のズレが見られるためである。しかし、簡単な覚え方としては有効な分け方である。建物の管理監督の責任を持つ方は、覚えておいて損はないであろう。

収容人員とは

消防法は建物の用途によってその要請を変えるというのはおわかりいただけたかと思うが、用途の次に関係してくる要素が、面積と収容人員である。面積については言わずもがな、その用途で使用している延べ面積が広ければ消防法の要請が生まれるものであるが、問題は収容人員の方である。収容人員はこれまでに何度か登場している「建物の使用者数」のことで、多ければ消防法の要請が発生し、逆に少なければ発生しないということになる。収容人員は消防法の要請が必要か否かを決定付ける大きな要素になるため、その具体的な計算方法は厳密に定められている。計算方法の基準は消防法施行規則第1条の3にまとめられているので基本的には全国共通なのだが、椅子の扱い等細かな規定は地方自治体によって違う場合があるため、詳細は管轄の消防署に確認していただきたい。

図2

たとえば、待合室が30㎡で、従業員が20人、病床が5つある病院を想定する。病院の収容人員算定は「①医師,歯科医師,助産師,薬剤師,看護師その他の従業者の数、②病室内にある病床の数、③待合室の床面積の合計を3平方メートルで除して得た数」の合算で求めることになっているので、これを計算するとその病院の収容人員は35人という結論が導き出される。病院は特定防火対象物なので収容人員が30人以上いれば防火管理者の選任が必要になる。防火管理者が必要ということは、消防計画の策定も必要であり、いずれも行わなければ消防法違反になっていまうということである。

建物の類別は複合的なもの

最後に、消防法の要請は建物を複合的に見るものであるという点に気をつけていただきたい。世の中には一つの建物を複数の用途で使用している場合が多く存在する。たとえば、5階建てのビルで、1階を居酒屋と会社事務所が使用し、2〜5階は共同住宅としてしている場合などである。このような場合は、その建物は消防法施行令別表1では16項イと見なされ、建物全体が特定防火対象物として扱われる。すなわち、収容人員によっては本来防火管理者や一部の消防設備が不要となる共同住宅部分にもそれぞれの設置が義務付けられる場合があるのだ。これは、それぞれを一つの防火対象物として個別に判断するには違いないが、建物を共有している以上、一つの防火防災管理体制で行う必要があるという理由からによる。そのため、会社事務所の責任者は自身のテナントは非特定防火対象物だからと、特別の防火防災管理を行わないと違法となるケースがあるので注意しなければならない。同じようなケースで、それまでは非特定用途とみなされていた建物の一部に飲食店やクリニックが入居することになると、その建物は特定防火対象物となることがある。このようなケースでは建物全体で新たな消防設備や防火管理者の選任などが必要となる。そのため、建物の所有者等はそういったことも含めてテナントの選定をする必要があるだろう。深く考えずに入居させてしまうと、実は大きなコストがかかってしまう、という事態になりかねない。

まとめ

消防法による、消防設備の設置や防火管理者の選任義務等の各種要請は、建物用途の類別と面積、そして収容人員の3点から判断されることになる。自身が関係している建物の用途や収容人員が具体的にどう判断されているのかを知るには、消防署に直接聞くのが一番早い。なぜなら消防署では建物それぞれの情報がデータベース化されているからである。しかし、消防署もすべてを完璧に把握しているわけではなく、テナントの入れ替わりや建物竣工後の消防による完成検査を受け忘れる等の理由によりデータと実態が異なっていることがたまにある。増改築やテナントの頻繁な入れ替わりがある建物を所有もしくは管理している方は、本コンテンツを今後の建物運用方法検討の一助にしてはいかがであろうか。