避難はしごは避難器具に属する消防用設備の一つである。避難器具は建物の用途及び収容人員によって必要か否かが決定されるが、避難はしご(とくにハッチ式のもの)は現在の共同住宅のスタンダードであると言えよう。点検には難しい知識は必要ないが、避難器具という有事の際の最終手段という扱いである点に注意して点検すること。
目次
避難はしごとは
避難はしごとは、災害発生時に安全な場所まで避難する際に用いるはしごのことで、消防用設備「避難器具」のうちの一つである。避難器具には他に、滑り台、救助袋、緩降機、避難橋、滑り棒、避難ロープ、避難用タラップなどがある。避難はしごはその中でも一般的に広く普及しており、共同住宅のベランダ部分にハッチ式のものが設置されているのを見たことがある方も多いであろう。
避難器具とは言え、余程の状況でない限り、実際には通常の経路から脱出するほうが早く安全なことが多い。あくまで、避難器具を使用しないと逃げられないような状況に追い込まれたときのみ使用する最後の手段という認識で間違いない。
設置基準等
避難はしごをはじめ、避難器具の設置基準は消防法施行令第25条に規定されている。避難はしごを設置する必要があるかは、建物の用途と設置階、そして建物にいると想定される人員の数によって決定されてくる。避難障害を持つ方がいる建物や、避難を円滑に行えない作りの建物では設置基準が厳しく規定されている。たとえば、避難はしごの場合、病院では収容人員が20人以上と判定されればその2階部分に設置を求められ、テナントのない共同住宅では建物内にいる人物が30名以上と判定されれば2〜10階にそれぞれ求められる。また、必ずしも避難はしごを設置する必要はなく、建物の用途と設置する階数に合わせて、別の避難器具で代用可能な場合も多い。
ただ、設置スペースの関係で、共同住宅のベランダにはハッチ式の避難はしごが設置されていることが多い。余談であるが、共同住宅のベランダ部分が幕を隔てて隣室と接続されている場合、そのベランダは専有面積とは見なされない。避難時にはその幕を破って隣室住人がベランダスペースを共有するのがその理由である。もし、有事の際にベランダから避難する場合は、自身のベランダに避難器具がなくても、その幕を破っていけばいずれ避難器具を発見することができる。もし、発見できない場合は避難器具を使わなくても逃げられる構造の建物であるはずなので、過度な心配はいらない。
点検について
避難はしごも消防用設備である以上、半年ごとの点検は義務となる。ここではよくあるハッチ式避難はしごの機器点検について述べる。この点検では特殊な器具や難しい知識が必要になることは少ないが、共同住宅のベランダに設置された避難はしごを点検するには居室に入る必要も出てくるため、気軽に行うことはできない。日時を定めて、一つ一つ確実に点検するのが望ましい。もし、点検業者に依頼せず防火管理者や建物の関係者が自力で点検する場合には、大まかではあるが以下の点に注意するとよい。また、各自治体によって個別の設置基準が定めれれている場合があるため、点検前に必ず管轄消防局に設置基準を確認すること。
①避難器具を操作する際に邪魔になるものがないか
これは「操作面積」といって、避難器具を使用する際に設けなければならない周囲の空間である。操作面積は、避難はしごの前に一辺0.6m以上かつ面積が0.5㎡以上の四角いスペースがなければならない。よく、ベランダ部分に私物を置いている居住者がいるが、厳密に言えばアウトである。この場合、住人に撤去を依頼する他はない。
②はしごを降下させる下の空間に障害物がないか
これは「降下空間」といって、要するに人が問題なくはしごを使って避難できるかを点検することになる。ハッチ式避難はしごの場合、降下空間はハッチの開口部面積以上の角柱形とされている。①同様、この空間に下階の住人が何かしらの私物を存置している場合、撤去してもらう必要がある。
③著しい損傷及び機能に異常はないか
部には雨水が溜まらないように穴を空ける等の対策はされているものの、それでも塵や埃が詰まると錆の原因になる。また、実際に稼働させ、重量をかけることで正しく使用できるかは確認しなければならない。ただ単に上蓋だけ見て異常なしとすることは絶対にしてはならない。
④標識及び使用方法の説明書きに損傷はないか
避難はしごに限らず、避難器具には必ず避難器具の位置を示す標識や使用方法を表示する標識が設置されている。ハッチ式避難はしごであれば、蓋の上や蓋を開くと説明書きが現れる。これが剥がされていないか、薄くなって読めなくなっていないかを確認する。
まとめ
今回は避難器具のうち、共同住宅等でよく見られるハッチ式避難はしごについて解説した。先述のとおり、避難器具は避難はしごだけではない。ほかの避難器具についても別コンテンツで解説する予定である。点検について言えば、避難器具は知らぬ間になくなっていたり、建物施工段階から実は必要数が足りていないということは少ない。しかし、だからと言って、点検に力を抜けるはずもなく、消火器のように簡単に点検できるものではない。消火器や消火栓等の消火器具は、火炎の拡大を抑えるための道具であるが、避難器具は人命を逃がすための道具である。そういった意味でも、入念な点検と整備は特に必要であろう。