設備 最終更新日: 2023年08月26日

加熱試験器使用時のポイントと注意事項

消防設備点検の資器材筆頭とも言える加熱試験器。扱うのは難しくないが、点検時には知っておいたほうがよいポイントがいくつか存在する。本コンテンツが、消防設備点検初心者の方や、自身で消防設備点検を行おうとする建物所有者等の手がかりとなれば幸いである。

加熱試験器について

加熱試験器は熱感知器を始めとする自動火災報知設備のシステムが正しく作動するかどうかを点検する際に使用する資器材である。名前は知らずとも、画像を見せれば大体どのようなものかは想像ができるであろう。

仕組みとしては、試験器の中に仕込まれた綿に燃料(主にベンジン)を浸し、ライター等で炙って発熱させる。ライターで炙ると言っても、加熱試験器から火が出るわけではなく、あくまで発熱するだけである。アウトドアに詳しい方はご存知かもしれないが、ハクキンカイロというジッポーライターのようなカイロがあるが、それと原理的には同じものである。
消防設備点検と言えばこれ、という資器材であるが、本体部分で5万円前後の費用がかかり、意外と値段が張る。また、大きなマンションの共用部等では天井面が非常に高い場所があり、そのような場所に設置された感知器を点検する際には伸縮機能の付いた柄を用意する必要があり、その場合は柄の値段で2万円、合計7万円ほどの予算が必要になる。

建物関係者自ら自動火災報知設備を操作及び点検することは少ないと思われるが、原理を知ることで、設備点検業者とのやり取りや、入居者からの簡単な問い合わせへの対応等の助けになれれば幸いである。

準備

上述のとおり、加熱試験器を使用する際には燃料が必要となるので、まずは燃料を入れることから始まる。裏蓋を外すと綿が出てくるので、そこにベンジンを浸そう。どの程度浸すかだが、ビチョビチョにする必要はまったくない。手で触って、湿っているとわかる程度で問題ない。そして燃料を入れたら改めて本体に装着するが、その際に忘れずに枠のネジを手締めで良いので閉めること。このネジが緩んでいると、点検中に燃料タンクが外れる可能性がある。感知器の点検中に燃料タンクが落下し、住人の私物や加熱試験器を破損してしまうことは避けなければならないので、ネジを閉めるのは癖にしてしまうとよいだろう。
燃料タンクを装着できたら、火口部をライター等で炙り、火を入れる。加熱試験器に火が入るとすぐに暖かくなるので、手を近づけて暖かければ問題なく機能している。

使用時の注意

使用時の注意は、加熱試験器を感知器に当てすぎないことである。火が出ていないとは言え、火口部はそれなりの温度になっているため、しっかり感知器に熱を通そうとして感知器に接触させ続けると、感知器の先端が熱で溶けてしまう。規定の時間内で感知器が作動するのかを測定することになるが、必ずしも規定時間内ずっと接触させ続けなければいけないわけではない。現実的にどれだけ感知器に熱を当てればよいかは、感覚的なものになるが、住宅居室内の熱感知器であれば、概ね3秒ほどで大丈夫である。なお、台所に設置された熱感知器は、反応温度が高いものが設定されていることが多いため、5秒くらい当てたほうがいい場合がある。いずれにせよ、数秒当てて加熱試験器を外した時、感知器を見ると作動ランプが消灯しているが、正しく熱を伝えていれば数秒後に点灯するはずである。これで感知器側は問題ない。熱感知器は、熱を感知して作動するまでにタイムラグがあるので、加熱試験器を外した際には消灯しているが、その後点灯する、くらいで丁度いい。

使用後は

準備の際と同様、燃料タンクを外し、火口部に向いている綿の入った燃料タンクを裏返して再度加熱試験器に装着する。これにより、空気が遮断され発熱は止まる。この行為をよく消防設備点検現場では「返す」という。加熱試験器の種類によっては、サイドに空気遮断版がついており、操作することで熱反応を止める機能がついているものもあるが、しばらく使わないようであれば、裏返すことをおすすめする。裏返すことで、確実に反応は止まり、熱反応が残った加熱試験器と何かが接触し火災になるという最悪の事態が避けられるからである。

まとめ

加熱試験器による点検の作業自体は難しいことはないので、消防法の許す限り無資格の建物関係者による点検も可能だろう。しかし、感知器は自動火災報知設備の一部であり、感知器の点検は全体の点検の一部に過ぎない。点検時は受信盤の操作も重要となり、誤った点検をすれば、正しくその機能を測定できないほか、音響装置が作動し、建物の居住者やテナント入居者を驚かせてしまうことにもなりかねない。受信盤の取扱説明書等もネットで探せば入手できるが、不安であればやはり点検業者に依頼するのが確実であろう。