民泊 最終更新日: 2023年07月02日

公的データから見る「けっきょく民泊ってどうなんでしょう?」

今回は、民泊新法が施行されてから3年半後に公的機関が民泊事業者に実施したデータを元に作成した。開業時の初期費用の総額、宿泊単価、運営に掛かるコスト、民泊事業者が事業を継続する意向があるかなどをアンケート調査から明らかにした。

はじめに

2018年6月に民泊新法が施行されてから5年が経過した。観光庁は民泊の実情を明らかにするために住宅宿泊事業者(以下、「民泊事業者」という)に2021年11月~12月にかけてアンケート調査を行った。調査時の民泊事業者の全届出物件数18,418のすべてに案内を出し、回答数は2,176件、回答率は11.8%(=2,176/18,418)だった。12%弱では回答率が低い、2千ぐらいの回答数では信頼できない、と感じる方もいるだろう。よって、まず以下で重要なデータを示す。

図1 各許容誤差に対する必要なサンプル数がわかるグラフ
https://trim-site.co.jp/faq/qa01/

上図はアンケート等の調査で何人ぐらいに聞けばその調査結果が信頼に足るものになるかがわかるグラフである。統計学的に調査対象をサンプルと呼ぶが、許容誤差を何%内に設定するかでサンプル数は異なってくる。仮に、許容誤差を5%にした場合、集計結果で「良かった」が90%といたとすると、母集団全体は90%±5%となり、「85%~95%」が「良かった」とみて取れる。そして上図で許容誤差5%を担保するサンプル数は400程度で、母集団が10,000を超えれば精度は変わらないことから、本稿で示すデータは、母集団18,418に対して、2,176のサンプルが取れているため、かなり信頼度の高い調査結果であるといえる。今回はそんな極めて信頼できるデータを用いつつ解説・分析を加えていく。

民泊開業についてのデータ(開業資金は?)

民泊事業者への調査結果で、下図左が示す通り半数以上の物件が法人の運営である。右図からは、主として、個人が「一戸建て」「長屋」等のいわゆる一軒家、法人が「マンション」「アパート」など集合住宅での運営であることが分かる。

図2 民泊運営が個人か法人か?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf
図3 運営主体と運営する物件の類型
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf

下図左で、開業資金の総額がつかめる。半数以上が300万円未満の一方で、5,000万円もかけた物件が1割以上存在する。右図は開業初期に掛かった費用の項目であり、「消防設備」が8割弱で最も多いことが分かる。

図4 開業の初期費用の総額は?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf
図5 初期費用で使った項目は?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf

民泊運営についてのデータ(宿泊単価は?)

次に宿泊単価であるが、下図左側にて、1万円未満が8割弱と大半を占め、また5千円未満が全体の4割弱を占めていた(別表)。右側は、物件類型別の宿泊単価がだが、やはり集合住宅が低めで、3万円以上の設定をしているのは「一戸建て」「古民家」で、7%前後あることを鑑みても一軒家の方が付加価値を付けやすいと推定できる。

図6 地域別、宿泊単価はどれくらい?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf(
図7 施設の類型別、宿泊単価はどれくらい?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf(

下図左側は、近隣等からの物件別の苦情の状況だが、マンションはその割合が最も高く、右図にて「騒音」の苦情がダントツで多いことがわかる。

図8 近隣等から苦情を受けたことがある?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf(

けっきょく、民泊はやるべき?(事業継続が7割)

下図左側は、1泊当たりの必要経費の宿泊単価における割合だが、10%以上20%未満が3割以上と一番多く、物件別では「寄宿舎」(4割弱)、「アパート」(3割弱)と多いことが分かる。右側では、年間の固定費(住宅ローン、賃貸料、固定資産税、修繕積立金、管理費、家具等リース料、保険料等)を示しており、100万円未満が過半数を占め、物件別では「寄宿舎」が伸び抜けて高い。「マンション」も意外に掛かることがわかる。

図10 「宿泊単価における経費/1泊」の比率は?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf
図11 「固定費用の総額/年」は?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf

下図左側が、年間の利益率の調査で、残念ながら5%未満が4割弱もいる。一方で、40%以上も出している物件も8.3%あり、営業努力次第なのだろう。地域別では「中国(地方)」が最も高い。

図12 民泊事業者の年間の利益率は?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf

下図は、年間の利益率を物件別にまとめたもので、平均すると「古民家」「一戸建て」の順に高く、マンション及びアパートの利益率は低い傾向にある。また一戸建ては0%未満でも23%を占めており、二極化している物件といえるが、利益よりゲストとの交流(別データの「民泊をはじめた理由として「宿泊者との交流」が3割弱と高かった)を目的にしている「家主居住型」のオーナーが多い物件類型とも考えられる。

図13 民泊事業者の物件別、年間の利益率は?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf

最後に、事業継続の意向に関してだが、下図左図の通り7割以上が「有る」と答えた。本調査を行った2021年11月~12月は、まだコロナ禍の最中でありオミクロン株が騒がれていて水際対策の入国制限下であった為、インバウンド客は2019年の158分の1以下であった。つまり、まだ宿泊事業の展望としては暗かったはずだ。入国制限が大幅に緩和されたのが2022年10月で、インバウンド客が回復するのはその後である。

図14 民泊事業を継続しますか?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf
図15 事業を継続しない又は迷っている場合の要因は?
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf

そこで右側のデータであるが、民泊事業を継続しない又は迷っている層の最も多い(1割)理由が「稼働率が低いため」であり、つまり儲かっていない事業者は当然に、継続したくないと読める。
よって、民泊事業者にとって最も商い辛い“インバウンド客が来ない時期”に何とか生き延びていた事業者は、何かと工夫して稼働率を上げたか、大胆に経費削減をしたか、利益以外の継続する目的があったか等であったと考えられる。その他、ただ単にコンコルド効果(投資したが最期、報われるまでやめられない心理効果)の一環で、コロナ明けまでは何とか耐え忍んでいた可能性もある。

「民泊はやるべき?」の結論をいえば、資金がある前提で、以下のいずれか、または複数備えていればやるべきだと個人的には思う。

①収益が出そうな手堅い事業計画がある
②付加価値を付けゲストを喜ばせるアイデアがある
③収益性とは関係のない“ゲストとの交流が楽しみ”等の目的を強く持っている

まとめ

開業費用や宿泊単価等、具体的な数値が示されているため民泊事業を検討中の方にはかなり参考になったのではないだろうか。事業を行う強い目的があれば結果どうなっても後悔はしないはずだ。やらない後悔より、やった後悔の方がすがすがしい。尚、本稿で利用した元データはもっと多岐に渡り、民泊事業者対象のものだけでも26問のアンケートを実施しているので、既事業者の方は元データにあたれば自身の事業に活かせる部分もあろう。

参考

観光庁観光産業課民泊業務適正化指導室「民泊事業者の実態調査 2022年3月」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/content/001479286.pdf