今回は特定一階段等防火対象物について解説する。また、特定一階段等防火対象物に該当する建物に対する消防法の特例と注意点について述べる。
目次
はじめに
「雑居ビル火災」は数年に一度の頻度で多数の死者を出し、世間に火災の怖さを伝えている。この記事を執筆している現在も、大阪で起きた雑居ビル火災(注1)によって死者25人の方が亡くなったと報道されている。火災の被害が大きくなる原因には様々なものがある。その一つは、火災発生場所が特定一階段等防火対象物(以下、特定一階段と表記する)という特殊な構造の建物だということが挙げられる。今回はこの特定一階段について解説すると共にこの構造の注意点について伝えたいと思う。
(注1)大阪市北区の雑居ビルの火災 2021年12月17日 死者25人
特定一階段とは
特定一階段について解説する前に、まず、「特定用途部分」という概念について述べる。特定用途部分とは、消防法施行令別表1に記載されている、特定防火対象物(下記、表1参照)にあたる用途をもつ建物等の部分をいう。例えば、ビルの中に入っている飲食店は特定用途部分である。特定用途部分をもつ建物等は火災の際に被害が大きくなりやすいため、消防法によって規制を厳しくしている。
参考
消防法施行令 別表第一
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336CO0000000037
そして、特定一階段とは、①消防法上の避難階(1Fもしくは2F)以外の部分に特定用途部分をもつこと、及び②避難階に至る階段が1つしか無いこと、の2つを満たすと特定一階段となる。特定一階段の例を下に示してみた。
図1、2は、地階と3階以上の階にそれぞれ特定用途部分を持ち、階段が1つしかないので特定一階段である。
図3に関しては屋内階段と屋外階段の2つの階段があるが、特定用途部分がある地階には屋内階段しかないため特定一階段である。
図4については壁によって左右に分けられていて、特定用途部分がある階からは1つの階段しか使うことができない。よって、これも特定一階段である。
まとめると、地階もしくは3階以上の階に特定用途部分があり、特定用途部分がある階から避難に使える階段が1つしかない場合、特定一階段として扱われる。
なぜ規制が厳しいのか
先に述べた大阪の雑居ビル火災もこの構造によって多数の死者を出すこととなった。下の図5を見てほしい。火災発生場所は階段の前であったとされている。もし、階段が別にあればその階段から避難することができただろう。このように、出火階とは別の方向に逃げれるような構造を2方向避難という。
しかし、実際には階段は出火した側にしかなかった。当時この階にいた施設の利用者は階段やエレベーターの前が燃えていることで階段から避難できなかったと考えられている。このように特定一階段は避難が難しいため、消防法で様々な規制をして火災を防止しようとしている。
※出火階の4階はクリニックであり、発生当時、患者および医療関係者がいた。出火原因は放火であるとされている。
特定一階段に対する法律の特例と注意点
特定一階段に対する消防設備の規制強化には以下のものがある。
①自動火災報知設備(火災の際に非常ベルを鳴らす設備)の規制の強化
- 階段に設置する煙感知器の間隔を7.5m以下にすること(通常は15m以下)
- 地区音響(非常ベル)が停止されていても自動で再鳴動するものとすること
②避難器具(避難はしご、救助袋など)の規制の強化
- バルコニーなどに避難器具を設けること
- 避難器具が常時使用できる状態にしてあること(避難器具が収納された状態で無いこと)
- 1動作で使用できる避難器具を設けること
- 避難器具の場所を示す表示をすること
※1. 〜3. についてはいずれか一つでよい
また、消防設備の定期点検(消防法17条3の3)や防火対象物の点検(消防法8条の2)に関しても規制が強化されている。
③消防設備の定期点検の報告義務
消防設備が正常に設置されているかを点検するもので、6ヶ月ごとの機器点検と1年ごとの総合点検がある。
特定一階段以外は1000㎡未満の物件においては管理者等が点検することができるが、特定一階段では面積に関わらず全ての物件で消防設備士もしくは消防設備点検資格者に点検をさせなければならない。
④防火対象物の点検と報告
建物が火災予防上、適切に維持されているかを防火対象物点検資格者(注3)が点検をし、報告をする義務がある。
通常は収容人数が300人以上の物件で点検が必要だが、特定一階段は30人以上の物件で点検が必要である。
(注3)防火対象物点検資格者
防火管理者、消防設備士などが、一定の実務経験を有し、かつ登録講習機関の行う講習を終了することで資格を得ることができる。
以上のように、特定一階段は消防法による規定が厳しくなっている。そのため、消防設備の設置や維持に費用がかかることがあるという点に注意が必要だ。物件を購入したは良いが、改修等で思わぬ費用がかかったということの無いようにしてほしい。また、既存の物件の用途を変更する際にも注意が必要である。用途変更によって特定一階段に該当してしまう可能性があるからだ。例えば、それまで共同住宅として使っていた物件を宿泊施設や店舗に改装したとすると、建物自体は何も変わっていなくても特定一階段の規制を受けることになるかもしれない。
まとめ
特定一階段は避難が難しく、火災での被害が大きくなりやすい構造の建物である。そのため消防法では、消防設備の設置義務や点検義務を強化して火災の予防をおこなっている。
特定一階段は防災関係業者でも防火管理が難しいと思わせられる建物である。管理者の方や利用者の方は十分注意していただきたい。また、一度、避難方法について考慮することをおすすめする。特定一階段やその防火管理についてより知りたいという方は、ぜひ消防設備業者や防災関係者に相談してみてほしい。