設備 最終更新日: 2023年05月13日

電気工事と電気通信工事にかかわる資格の違い

電気工事と電気通信工事は、同じ電線や通信線を取り扱うということにおいては共通する部分が多い。法的にも明確に区分けがされている。
しかし近年、PoEや電力線通信など電力伝送線と通信線の区分けが曖昧な施工も出てきていることは事実だ。
ここで明確な電気工事と電気通信工事にかかわる資格の違いを考えておこう。

電気工事と電気通信工事の法的な区分け

電気工事と電気通信工事は、それぞれ別の法律により定義づけされている。
しかし法律の中での言及の度合いは異なっている。
電気工事は電気工事士法により明確な位置づけがなされているのに対して、電気通信工事は電気通信事業法の中で「電気通信設備の工事」という概念で語られているのみであり、具体的にはどのような場合が電気通信工事となるかは、それぞれのケースで判断される形となっている。
電気配線も、電気通信線も用途は異なっているが、電気エネルギーを伝送する配線であるということには変わりないため、曖昧なケースが出てくることは当然だ。
その場合、電気工事は電気動力や電灯に関する配線を行うものということに対して、電気通信工事はLAN工事やアンテナ配線、電話線工事という通信に関わる配線工事という判断基準が適用できると言える。
電気設備技術基準の解釈の中でも、電気配線とは別に「弱電流電線」という呼び方で通信線を明確に区別している。
電気通信工事に関する定義づけは、電気通信工事に関する法律より、電気工事に関する法律において、「この場合は電気工事の範囲外」という書き方がされているということでの判断ができると言える。

電気工事に必要な資格類

電気工事に必要な資格で代表的なものは「電気工事士」だ。
これは国家資格であり、「電気工事士法」により電気工事と区分されている業務に従事する際には必要となる資格だ。
資格の主な目的は、電気工事による感電事故や漏電による火災を防止だ。資格を取得する際に電気に関する基礎知識と工事に関する実技で試験を行い、一定基準以上で合格となる。
電気工事士資格が電気工事を行う個人に対するものということに対して、建設業による電気工事として、業務の工程管理などを行う「現場監理」の資格が「電気工事施工管理技士」だ。
電気工事も規模が大きなものになると、様々な人が協力して工事を行わなければならなくなる。
現場での調整や工程の管理、工事を工期通りに終わらせるよう工夫するのが工事現場の監理者の役割だ。
一定以上の経験と実務に関する知識を電気工事施工管理技士の試験では問う。

電気通信工事に必要な資格類

電気通信工事に関しても、電気工事のように電気工事を行う人と工程管理を行う人の資格がある。
電気通信工事の「工事担任者」だ。通信設備に対する基礎的な知識や通信の仕組み、情報セキュリティに関する問題を試験で問う。
工事担任者も電気工事士同様、電気通信工事にかかわる作業に従事するためには必要な資格である。
また、電気通信工事についても電気工事と同様に現場監理の資格がある。
電気通信工事施工管理技士は、電気工事施工管理技士同様、一定の実務経験後に受験を行う資格であり、電気通信工事に関する工程管理等を行うための資格となる。

電気通信工事においても、電気工事同様従事するためには国家資格が必要となる工事であるということは同じだ。

電気工事か電気通信工事かあいまいな場合

ここ数年、電力線を利用した通信や、LANケーブルの一部配線を電力線として利用し、電源線を省略するLAN配線PoEなどが出てきており、電気工事と電気通信工事の区分が曖昧な部分も出てきている。
電気工事で施工を行うのか、電気通信工事での施工なのか、判断に迷うような例が今後増えていくものと思われる。
電気工事の管轄は経済産業省、電気通信工事の管轄が総務省となり、さらに建設業としての位置づけを決めている建設業法を管轄しているのが国土交通省となるためそれぞれの立場で意見が分かれるということも十分に考えられる。
こうした場合、電気工事と電気通信工事での違いとすれば、動力供給用途の配線なのか?通信用途の配線なのかというものが一つの判断基準ではないかと考える。
電力線を利用した通信においては、配線のメイン用途が動力供給であり、通信はそれに便乗したものと言える。この場合、動力線での感電や電気火災を防止するために電気工事としての区分けがされる。
PoE通信では、動力供給といってもLANケーブルの許容電流以上の電流は流さないため、電気設備技術基準での扱いは「弱電流電線」に区分されるものと考える。そのため、施工は電気通信工事に区分されるものと考える。
しかしながら、一概に電気工事、電気通信工事と言えないものがあるのも事実であろう。技術進歩に伴い、今後このような分類自体大きな意味を持たなくなる可能性も十分にあり得ると思われる。

まとめ

新技術の登場などにより、電気配線と通信線の境界が今度より曖昧なものになると考えられる。
工事におけるものだけでなく、電力と通信がそれぞれの分野における電力会社や通信事業者などが事業に参入するなど企業規模でもその境界が曖昧なものとなっている。
電力会社が光回線を販売するほか、通信事業者が電力自由化による小売り電気を販売するなど業界再編も激しい。
電線を引いて電気を届ける、電話をつなげるなど旧来の業務でそれぞれの業務を行ってきた電力会社や電話会社は、ほぼ独占に近い状態で業務を行ってきたが、それが自由化されたために様々なことを考えることにつながった。
イメージで述べるならば、電気配線を使って通信を試みる、LANケーブルで電力を送るなどのような試みは今後様々な既存の配線を利用したものから行われていくものと思われる。
それが既存技術の刷新にもつながり、使われていない配線の有効活用など様々な設備の有効活用にもつながっていくのではないか。

参考

経済産業省「電気工事の安全」
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/koji.html

総務省「電気通信関係資格手続きの案内」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/denkishikaku.html