AIカメラとは人工知能技術を用いたカメラのことであり、近年目覚ましい技術の発展を遂げている。このカメラを用いることによって、従来のカメラでは検知しにくかった情報や誤報を防ぎ、さらに単なる監視カメラとしてではない付加価値の高いサービスを提供できることに期待が集まっている。AIカメラの登場により、単なるセキュリティ分野としてではなく、介護・医療の分野においても業務効率化を図ることができるので、建物管理者やオーナー・経営層は今後の製品・サービスには注視すべきであろう。
目次
はじめに
皆様のお勤め先の建物に監視カメラは設置されているだろうか。近年、監視カメラは大規模施設や商店だけでなく、集合住宅や一般的な事務所などさまざまな場所に設置されている。また、監視カメラはその数だけでなく技術も進歩している。今回の記事ではAIを使った監視カメラについて紹介し、その技術の進歩がもたらす影響について考察する。
AIカメラの特徴
AIカメラとは、AI(人工知能)の技術を利用しているカメラのことである。単純に動画を保存するだけでなく、撮影された映像を解析し、そこに写っている物を認識したり動作を検出したりできる。とはいえ、カメラによって物を認識したり動作を読みとる技術というのは以前から存在していた。たとえば、メーターの前にカメラを設置し、メーターの針が一定の位置を示せば警報を鳴らす、などの利用法である。しかしこの種のカメラ装置は、メーター角度が少し変わったりするだけで針を検出できなくなるなどの問題点があった。一方、AIカメラで同じような装置を作るならば、この問題点は解決できるだろう。AIカメラはメーターの角度の変化によってカメラへの写り方がどのように変わるかを学習することで、写り方が多少変わってもメーターを読みとることができるからである。このようにAI自身に学習させることが出来るというのがAIカメラとしての特徴である。
AIカメラにできること
AIカメラは学習することによって、物を認識したり動きを検出したりできるようになる。先の章では、簡単な画像認識を紹介したが、他にはどんなことが出来るのだろうか。ここでは幾つかのAIによる画像認識技術の中から、①物体検出、②姿勢検出、③セグメンテーション、④パターン認識、について紹介する。
①物体検出
AIカメラは、映像から物体を特定の物体として認識することができる。例えば、街路樹がある道路に看板が立ててあり、付近を人が歩いている映像があったとする。AIカメラは学習によって、看板と周りの木は別のものであるということを認識することができる。また、歩行によって人の位置が変化していたとしても、それを一人の人間として検出することができる。
②姿勢検出
姿勢検出とはAIカメラによって人の姿勢を認識する技術である。人の顔や体の向きや、関節の向き、手の位置、足の動きなどを検出・学習することでAIは人が何を行なっているのかを検出する。体をある方向に向けて手と足を交互に動かしながら移動していれば歩いていると認識し、ソファーの上に腰を下ろして顔をテレビの方向に向けていれば、テレビを見ていると判断できる。
③セグメンテーション(segmentation)
セグメンテーションとは、日本語で「区分」もしくは「細分化」などを意味する。画像認識の用語としては、画像に含まれる物体の領域を抽出する技術をいう。一枚の画像の中に道路と駐車場と人が写っていたとすると、画像の画素一つ一つにおいて、それぞれどの部分が車道、駐車場、もしくは人なのかを画素単位で分ける。よって、画像単位で物体を認識する物体検出よりも細かく物体を認識できる。この技術を利用すれば、先の例で言うと、セグメンテーションによってAIカメラは人が道路にいるのか駐車場にいるのかを判断できる。
④パターン認識
パターン認識とは、特徴を登録しておいてその特徴をもった物を認識するというものである。このパターン認識は、AIカメラの大事な機能である「学習」の元ともなる技術である。言い換えれば、パターン認識を幾度となく行い、その判断を覚えさせたものこそが「学習」なのである。AIによる顔認証もこの技術が大きな役割をはたしている。顔の登録時にその顔の特徴をいくつか認識する。そして認証時にその特徴を探すことで、登録した顔と同じかどうかを判断しているのである。
セキュリティ業界においての利用方法
カメラに写った映像から様々な認識や検出を行うのがAIカメラだということを先の章でお伝えした。では、セキュリティ業界でこの技術はどのように用いられているのだろうか。今回は、2021年9月にALSOK(綜合警備保障株式会社)から発表された「ALSOK AIカメラシステム」を例に挙げて説明する。
このサービスでは、AIカメラを使って以下の3つのサービスを提供している。
ア 侵入検知
仮想の検知領域を設定し、その領域内に侵入した人物を検知し通知する。
従来のビームセンサーでは、赤外線ビームの射線上を物体が通過しないと侵入検知できなかった。つまり、レーザーの死角から入ったりするなど、何らかの方法で警戒エリア内に入ってしまえば自由に行動できてしまった。また、屋外では人以外の物体(ゴミや動物など)が通過することによる誤報が多かった。しかし、AIカメラを使えばエリア内すべてに対して警戒することができる上に、人以外の物体による誤報もなくなる。
イ フェンス越え検知
仮想の境界線を作成し、その境界線を乗り越える人物を検知し通知する。
従来は、フェンスの上にビームセンサーを置くことでフェンス越えを検出するのが一般的だった。この方法の問題点としては先の例と同様に誤報が多いことがあげられる。また、フェンス以外の場所から侵入されるという弱点もある。金網の塀や生垣だと、金網や生垣を物理的に壊すことで簡単に侵入できてしまう。そのため網状や線状のワイヤーを使ったワイヤーセンサーを別に設ける例もあった。AIカメラならばこれらの問題を解決することができるだろう。
ウ エリア内人数カウント
検知エリア内に存在する人物を15分毎に自動でカウントし、統計データとしてまとめる。
施設管理者の中にはこの機能が最も役に立つと考える方も多いのではないだろうか。この機能によって、商業施設などではどの時間帯にどのエリアが混み合うのかを知ることができる。飲食店などでは混み合う時間帯を予測するのに役立つだろう。また、近年の感染症対策によって、人と物理的接触を避けたり、人口的に「密」な状態を回避したりという意識が強まった。介護や医療の現場ではエリア内の人数管理の方法としても役立つだろう。
また、AIカメラはインターネット回線を利用し、離れた場所でも監視を行うことができる。例えば侵入者を検知すると通知が送られ、その時の映像をスマートフォンで確認するということもできる。
最新の技術と介護施設・商業施設への影響
今回紹介したALSOCKのサービス以外にも、AIカメラによるさまざまなサービスが提供されている。例えば、人の動作と物体の位置を検出する技術を用いて万引きを検出する技術がある。介護・医療の分野では物体検出や姿勢検出の技術を用いて、要介助者の無断外出や転倒・失神などを検出する取り組みも行われている。さらに最新の技術では、人の表情のパターンを学習することで泣いたり怒ったりという人の感情を読みとることができるようになった。また、人の姿勢や行動を学習することで、人による暴力行為を見つけだすことも出来るようになっている。これらの技術により、例えば介護施設利用者同士の喧嘩を見つけることができたり、商業施設などで起きる強盗や暴力行為を発見したり出来るようになり、事件の初期による対応が出来るようになるだろう。昨今の人手不足の現状やIoTの促進によって、人による監視や管理は今以上にAIやロボットに変えられていくだろう。今後はAIカメラがあって当たり前の時代になるということは想像に難くない。
まとめ
AIカメラとは、学習し、判断できる機能を備えたカメラの事である。セキュリティ分野では、侵入検知や万引き防止といった犯罪を発見するために使われている。現在AIの市場は急激に増加している。世の中のIoT化に伴い、AIカメラも今後はさまざまな場所に設置されていくだろう。特に今までは人手によって監視・管理を行なってきた商業・介護・医療現場においては、AIカメラが一気にその活躍の場を増やしていくと考えられる。この技術の更なる進歩に引き続き注目していこう。