民泊 最終更新日: 2023年04月29日

警告!この設備なしでは民泊の開業はできない

民泊を開業するためには様々なハードルを乗り越える必要がある。民泊の運営形態に応じた関係官庁への届出に加え、自動火災報知設備をはじめとする消防設備や、防炎物品や避難経路図の設置など様々な建物への改修が必要になってくる。宿泊客の安全を守ることはもちろん、計算外の出費やリスクを減らすためにも、必要に応じて法律や設備に習熟した専門家の協力を得ながら民泊運営を行っていくことが重要である。

はじめに

“民泊”とは、「民家」に「宿泊」することの通称で、宿泊ビジネスを表する言葉でもある。ビジネスオーナーや相続により扱いに困っていた空き家及び空室物件の所有者にとって、有益な収入源となることが期待され、事実しっかりと収益を上げているオーナーも存在する。思いのほか長引いたコロナ禍のあおりで廃業した民泊が多数にのぼったものの、このところ日増しに増えるインバウンド、一般人でも宿泊事業を実現可能にする点など、“民泊”というワードは家持の興味・関心を引き続けている。とはいえ、人様を迎えて商売をする以上、民泊を開業するには相応の設備が必要となる。民泊事業の費用感を掴むためにも、計画を立てる前にどの様な設備が必要かを把握しておくことが賢明であろう。

民泊開業に必要な設備とは何か?

民泊をどの制度を使って開業するかにより設備の事情は異なってくる。制度とはすなわちルール(法令)であり、開業の難易度が高いものから「旅館業法」、「特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)」、「民泊新法(住宅宿泊事業法)」と続く。結論的には専門の事業者でない限り民泊新法で開業するのが現実的だと思われる。

図1 3つの制度の特徴の比較 
https://share.jp/column/sharingeconomy_law/private-lodging2/

民泊とはただ使っていない部屋を旅行サイトに登録さえすれば簡単・手軽にはじめられると思う向きもある。だが、何事も制度を決めて運用しなければ人は無秩序に陥りがちで、騒音やゴミ問題、治安悪化等の不具合が生じるため違反者への罰則規定も存在する。宿泊者名簿を備え付け、作成から3年間保存しておく必要もある。
また、インバウンド客に対して、住宅設備の使用方法、交通手段の案内、火災や地震等の災害発生時の通報連絡先などを外国語で説明したものを掲げておく必要もある。
寝泊まりするのに必要な設備のほか旅行者の安全・安心、衛生面をも確保するための設備も求められる。そして、防災・消防設備は必須である。火災や地震などの災害が発生した場合、しっかりとした対策を行わなければ隣近所も含めて人命や財産に大きな被害が出てしまう。そのため、建物によっては民泊には以下のような消防設備を設置しなければならない。

・自動火災報知設備
・消火器
・避難口誘導灯
・階段通路誘導灯
・通路誘導灯

消防設備の種類及び設置場所は、家主の不在状況、建物の規模等により消防法令上「住宅」、「宿泊施設」かの分類により決まる。多くは家主不在での運営であり、宿泊施設となる。

例えば、家主不在の一般的な規模(延べ面積300㎡未満で、階数が2以下)の戸建てで開業する場合、以下が消防法令上の必要な消防設備及び物品である。

①簡易な自動火災報知機(特定小規模施設用自動火災報知機)
②消火器(建物の延べ床面積150㎡以上)
③避難口誘導灯
④階段通路誘導灯
⑤カーテン、じゅうたん等は防炎性能であること

①は、感知器・発信機・受信機・音響装置などを配線工事により設置・構成させる通常の自動火災報知機とは異なる。配線工事が不要の無線式だが感知器同士が連動するタイプで、簡便に設置できる。また誘導灯については構造上、避難経路が簡明なら特例により免除される。

図3 自動火災報知設備と特定小規模施設用自動火災報知設備について
https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/suisin/items/minpaku_leaf_horetai.pdf

尚、消防用設備の設置基準はとても複雑なため、専門業者への事前相談等にてトラブルを回避したい。

部屋の設備について

宿泊者が占有する居室の床面積に関して、衛生確保を図るために宿泊者一人当たり3.3㎡以上を確保しなければならないといったルールもある。更にキッチンも必要で、バスルーム・トイレ・洗面設備は3点ユニットの統合タイプでも良い。
冷暖房設備も必要不可欠である。ゲストが荷物を置くための収納スペースも忘れてはならない。ゲストの滞在期間や人数に応じては荷がかさむため、クローゼットや棚などのスペースも欠かせない。
そして、居室に窓がない場合は非常用照明も必要となる。ちなみに、非常用照明は消防設備ではない(建築基準法)。

共用設備について

共用スペースを設ける場合は、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機、Wi-Fi設備などがあればゲストは喜ぶだろう。設置義務があるものの他、日本文化の象徴のような鎧兜や合戦絵巻など武士をイメージした物品、日本画や掛け軸、和紙であつらえた家系図、忍者グッズなどインバウンド客のみならず同胞の旅行者をも喜ばせる工夫が集客やリピートにつながるはずである。

図4 鎧兜や家紋、奥には白い玉砂利を配したミニ盆栽のある和室
https://homeshop-ikeya.com/filialpietyreform/

防災・消防対策について

民泊を開業の際には、緊急時の対応策をきちんと準備しておく必要がある。たとえば、地震や火災などの災害が発生した場合に備えて、ゲストの避難場所や緊急連絡先を伝えておくことが挙げられる。また、非常用電源やライト、救急箱、防災セットなどを備蓄しておくことでゲストはより安心できるだろう。
火災予防対策はとても重要で、民泊ではゲストが自炊をする場合もある。キッチン周りの火災予防を強化し、またNG事項等の注意書きはどんな文化圏のゲストにも理解可能なイラストで注意喚起をうながすひと工夫が事故を未然に防ぐことにつながる。

まとめ

民泊を開業するには、防災・消防対策が不可欠となる。また、ゲストの快適な滞在のためには、部屋や共用スペースに必要な設備を用意し、故障対応等、適切に管理する必要がある。ビジネスオーナーや空き家・物件の所有者の方々は、この記事を参考に、“休眠”不動産を“収益”物件として働かせるべく民泊の開業を検討してみてはいかがだろうか。

参考

コンデックス情報研究所編(2018)『新法「住宅宿泊事業法」対応! 民泊の手続き・届出がわかる本』成美堂出版

総務省消防庁「民泊における消防法令上の取扱い等に関するリーフレット」
https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/suisin/items/minpaku_leaf_horetai.pdf

民泊消防関係Q&A(東京消防庁)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/qanda.pdf