普段は意識にのぼることのない緩降機であるが、火災発生の際、高所からの避難を助け得る器具のなかでは比較的安価に設置できることからも、最適な設備といえる。ただし、その器具の性質上、使用方法を誤ってしまった場合には痛ましい事故の報告もされている。
とはいえ消防設備業者のしっかりとした指示のもとで正しい使用方法を習得すれば、安全に利用することが可能な心強い味方になり得る。
今回は緩降機をご紹介する。
はじめに
緩降機と聞いて、一般の人はその姿が思い浮かばない方がほとんどだろう。緩降機は、その語感から察せられる通り、高所から降下する機器である。設置スペースをそれほど必要としないことから小規模でかつホテルや病院、飲食店等の人が多く集まる施設の2階以上に設置されることの多い避難器具である。
その使い方等の詳細情報は、消防庁のホームページや動画等、様々な媒体で手に入るが、一歩間違えれば事故に繋がるため信頼性の高い情報源にて、正確に把握することが必須となる。
建物において、通常なにげなく利用している通路以外に、非常時に危険を回避しつつ逃げるべく決められた非難経路というものがある。避難経路図は、誰でも一度は見たことがあるのではないだろうか。
火災が起きて避難する際、出火場所によっては、炎や煙に遮られて避難経路まで辿り着くことが出来ないこともある。とはいえ、2階以上の高所では避難のためといえども窓等から飛び降りて逃げるわけにもいかない。この様な場合に、迅速かつ簡易な方法で避難することができれば人命は守られる。その方法の一つが、緩降機を使って脱出する道である。緩降機が備えられている建物では、緩降機の使用方法さえ守っていれば、窓やバルコニー等から安全に素早く屋外に避難することができる。
緩降機とは
緩降機は法律・法令の規定では、消防法第17条の規定にある、建築物への設置が必要な消防用の設備のうち、消防法施行令第25条第2項において規定されているもののひとつである。ほとんどの防火対象物に設置することができる。
緩降機の構造は、調速器とロープ、着用具、各々をつなぐ連結部や安全環、ロープ及び着用具の巻き取り並びに一方の着用具を地上に投下するのを補佐するリール等から構成されている。
緩降機を簡単に説明すると、使用者が他人の力を借りず、高所より自重で降下でき、つるべ式(連るべ、続けざま)に一人ずつ交互に、地上に避難するための器具である。つるべ(連瓶)とは、井戸の水を汲む際に、綱の先端に取り付けた水汲み桶である。桶(連瓶)は綱と繋がっているため、その綱を滑車に掛けて、引っ張ったり緩めたりすることで桶が上下に移動するイメージである。
これを緩降機に置き換えると、綱の先端の桶部分には着用具が備え付けられており、それを避難者が装着し、降下する。綱であるロープを引っかける滑車の部分にあたるのは調速器で、降下の際の身の安全を担保するべく速度を調整するブレーキのような機能がある。この遠心力ブレーキの作用により着地の際の衝撃が抑えられ、ケガの心配をしなくてすむ。
次に、交互に避難が出来るという意味を説明する。緩降機を使用できる状態にセットした後、まずはリール部分を地上に投下する。もし地上に人がいれば、リールの芯に巻かれていたロープと着用具を外して(ロープのほとんどは投下した際にほどける)、ロープの先端に付いているもう一方の着用具を使えるように準備しておく。一人目が降下・避難するのと合わせて、地上にあったもう一方の着用具が上に上がり(地上に誰もいなければ着用具を巻いたリール自体が上がるため、次の避難者が着用具を外す)、窓際等で待機している次の避難者がもう一方の着用具を身に着けて降下するのである。この上下に移動する二つの着用具と共に、一人、また一人と避難が実現する。いわばシーソーの両端が交互に上下するイメージである。
緩降機の役割
避難器具の設置が必要な防火対象物については、その用途と規模ごとに消防法施行令第25条第1項第1号から第5号に規定されている。ここでは詳細は省略する。
緩降機の設置場所はバルコニーが最適だが、バルコニーがない場合でも室内の窓際への設置も可能である。
また、緩降機は建物の外部を垂直に降下するものである。適切な使用方法さえ理解していれば、特別な力や技術はいらないため大変便利な避難器具と言える。
緩降機を使わず、レンジャーのように窓からロープをつたって降下するとするならば、相当な精神力と身体能力がいるだろう。とはいえ、器具の性質上、高層ビルに設置した場合には特に、災害時にぶっつけ本番で使用するとなれば、なかには恐怖心で下降を躊躇する者が出てくる可能性もある。訓練済みであっても、あまりに高所では足がすくんで降下ができなくなるため、6階より上層階への設置は現実的ではない。
緩降機の訓練の重要性
安全に使用すれば便利な避難器具である緩降機だが、訓練中の事故も報告されている。
事故防止のため避難訓練を行う際でも気を抜かず、正しい使い方に則って、消防設備業者立ち合いのもとですることが重要である。なお、緩降機の取付方法は、メーカーによって違うので確認が必要となる。
避難訓練を行う前に、消防庁の動画で緩降機の使用方法を確認しておくのが良い。正しい避難の仕方を先に頭に入れておくことで、訓練の成果はより上がるだろう。確実な訓練を積むことで、もしもの時でも慌てず、無駄な恐怖心を持たずスムーズに避難できるはずである。
まとめ
災害が起きていざ避難する時、避難経路と併せていくつかの避難器具を事前に把握しておけば安心感は増すはずである。仮に避難経路を絶たれても、窓からでも避難が可能な緩降機の使い方をマスターしていれば、人命を一人でも多く救うことに繋がる。
安心できる業者の避難器具を選び、消防設備士などの専門家のもとで訓練を実施して、その身で緩降機を体感してみてはいかがだろうか。
参考
東京消防庁「緩降機ってなに?」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/shobo-setsubi/rescue-reel/about.html#breadcrumb
東京消防庁「緩降機の使用方法を覚えよう」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/shobo-setsubi/rescue-reel/use.html
ARCHILINK「設置するときになって慌てない、緩降機についての基本5つのポイント」
https://archilink.jp/loose-machine
株式会社合同防災
https://www.goudoubousai.co.jp/