建築物省エネ法が2021年の4月に改正が決定され、2年以内の施行が計画されている。
戸建て住宅などの小規模建築物に対しても一定の省エネ基準を満たすよう施工者側が施主に働きかける義務を課すもので、改正から2年後にあたる2023年4月より本格的に施行される。具体的な内容と、今までとは異なる点を解説する。
中小規模住宅等の省エネ化が進まない課題
建築物省エネ法の改正により、戸建て住宅等小規模住宅へ一定以上の省エネ基準を満たすよう働きかける形となる。
このようになった背景には、戸建て住宅や中規模集合住宅などの中小規模住宅への省エネ基準を満たした建築物の新築が進んでいないという事情がある。
高層ビルや大型ショッピングセンターなどの大規模建築物は、古くから省エネ法により、届け出により省エネ施策を行うよう規制されていた背景があり、多くの築浅の大規模建築物は省エネ化が進んでいる。
しかし、中小規模建築物に関しては、従来の建築物省エネ法では、省エネ基準を満たすかは努力義務や必要な場合のみ届け出であったため、資金面で省エネ化された建築物を購入できない消費者などが省エネよりも住宅購入を優先する形となってしまい、省エネ化が進まない状況だった。
今回の建築物省エネ法の改正はこうした事情を鑑みたものと考えられる。
戸建て住宅新築時の建築士からの省エネ基準適合の説明義務
建築物省エネ法の具体的施策として、戸建て住宅新築時の建築士による省エネ基準適合の説明義務が挙げられる。
断熱などの外皮基準を計算した結果を、建築士より施主にたいして、書面で説明し、省エネ基準に適合した住宅とするかどうかの意思を確認し書面にて残すというものだ。
これにより、今までの建築物省エネ法では、小規模住宅の基準は、新築時に省エネ基準を満たすかどうかは努力義務という記載だったため施工時には建築を行う業者の判断で省エネ基準にしない等で価格を抑えた施工を行うような場合が多かったが、施主に説明をし、施主側から省エネ基準適合不要ということを言われない限り、省エネ基準適合の住宅を建設しなければいけなくなった。
この説明を行った履歴は、対外的にもわかるように所定のフォーマットに即した文書で残す必要があるため、今までのような対応ができなくなる。
この施策の今後の課題としては、省エネ基準の計算方法の簡素化が挙げられる。
工務店や建築士を対象としたアンケートより、省エネ基準が住宅に適合しているかどうかの計算をおこなうことができないと回答している工務店や建築士が約半数いることが、明らかとなった。
今後、建築物省エネ法が施行された場合、こうした工務店や建築士へも省エネ基準の計算方法などを広めていく必要がある。
住宅トップランナー基準の創設
電気機器に対しては、モータや変圧器などの動力機器には鉄心や巻き線などの工夫により高効率化を行ったものに対して、トップランナー基準を設けている。現在、モータ等を新規で製作、販売を行う場合、トップランナー基準を満たしたものでなければ販売ができない等の規制がある。
こうしたトップランナー基準を住宅にも用いようという施策が「住宅トップランナー基準」である。
戸建て住宅の建築を行う住宅メーカなどに対して、その年の新築住宅の一次エネルギー換算値の省エネ基準の平均値に比べて、注文戸建て住宅では25%、賃貸アパートでは10%削減している住宅に対して、トップランナー基準を満たした住宅として販売を行う。
将来的には、新築住宅市場で販売されている住宅のすべてが住宅トップランナー基準を満たした住宅であるということが当面の目標となる。
既存住宅の省エネ化支援制度
既存の建築物に対して、省エネ施策を行ったリフォームなどを行う場合、一定の基準を満たしたものに対して、補助金を支払う制度も始まる。
トップランナー基準などの制度が新築工事のほうでは始まる一方で、住宅リフォームなどの分野でも、積極的に省エネ化を推進しようとする動きがみられる。
補助金制度の特筆すべき部分としては、補助金制度の条件の中に、既存建築物省エネ化推進事業の事例集への情報提供も含まれているということが挙げられる。
省エネ住宅や既存住宅の省エネ化が、省エネというだけでなく、どんなメリットがあり、施工後にどのような満足が得られているのかという部分を広く世に示す目的があるといえる。
省エネ基準は住宅外皮や一次エネルギー消費量換算など目に見えない基準を積み上げて計算を行うが、実際に完成後の住み心地の声というのも重要な指標だ。
政府が補助金を支払ってでも、こうした声を吸い上げたいという意図が見える。
まとめ
建築物省エネ法の改正案が成立する前の有識者会議では、「高い省エネ基準の住宅が市場で適切に評価される」ことを目的とするという趣旨の提言もあった。
これは、新築で低価格住宅を大量消費のように建設する住宅メーカやゼネコンなどに対する警鐘ともいえる。
特に戸建て住宅は、新築時が最も高い価格となるという世界では稀にみる市場であるということができる。その評価には建築物が省エネ基準かどうかはあまり重要視されていない。そうなると消費者としては、低価格の住宅を選択し、省エネ基準の住宅は普及していかない状態が変わらない状態となるといえる。
今回の建築物省エネ法の改正は、こうした新築住宅市場への変化を促すものであり、地球温暖化や気候変動など待ったなしの課題に政府として本気で取り組んでいくという強い意思表示ともいえる。
住宅は新築時が最も高く、売却ができないというような時代は今後変わりつつあるのではないだろうか。中古住宅の価格評価にも、省エネ基準が満たされているかどうかが重要な項目となる時代もすぐそこまで来ているのかもしれない。
参考
建築物省エネ法の改正概要と今後のスケジュール等について
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/shoenehou_assets/img/library/R1gaiyousetumeikaitext.pdf