多くの人々が利用する特定建築物において、所有者・管理者は、専門技術を持つ資格者に定期的に調査・点検させて、報告する義務がある。
下記がその根拠となる定めである。
建築基準法 第12条第1項
第六条第一項第一号に掲げる建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国、都道府県及び建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物(以下この項及び第三項において「国等の建築物」という。)を除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築物(同号に掲げる建築物その他政令で定める建築物をいう。以下この条において同じ。)で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物を除く。)の所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者。第三項において同じ。)は、これらの建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築物調査員資格者証の交付を受けている者(次項及び次条第三項において「建築物調査員」という。)にその状況の調査(これらの建築物の敷地及び構造についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含み、これらの建築物の建築設備及び防火戸その他の政令で定める防火設備(以下「建築設備等」という。)についての第三項の検査を除く。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
この記事では、特定建築物の詳細とその定期調査の内容と意義を解説する。
特定建築物とは
様々な多くの人が利用する建築物及び、それらの建築物に設けられた防火設備
高齢者などの自力で避難することが難しい者の就寝目的で利用する施設及びそれらの施設に設けられた防火設備
エレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機
上記で示された建築物は、法改正(平成28年)により一律に特定建築物として調査対象となった。ただし、特定行政庁によって建築物の規模や用途に応じて付加されているものが異なり、また報告時期も異なる点には注意が必要である。
特定建築物の定期調査の内容
特定建築物の対象となった建物の所有者は、その定期調査・検査を実施する必要があり、この調査及び検査は定められた有資格者が行わなければならない。そして、保持する資格の種類によって行える調査又は検査の内容が制限されている(表1)。
資 格 | 特定建築物 | 建築設備 | 防火設備 | 昇降機等 |
一級建築士・二級建築士 | ○ | ○ | ○ | ○ |
特定建築物調査員 | ○ | × | × | × |
建築設備検査員 | × | ○ | × | × |
防火設備検査員 | × | × | ○ | × |
昇降機等検査員 | × | × | × | ○ |
『設備と管理』2021年10月号「特集 特定建築物の定期調査報告」
肝心の調査の内容は、6つの大きな区分に分かれており、次の通りである。
- 敷地・地盤
- 建造物外部
- 屋根・屋上
- 建築物内部
- 避難施設
- その他
調査及び検査の方法は主に目視によるものであるが、地域によって異なる場合があるため該当する特定行政庁のホームページなどで事前に確認すると間違いが防げるだろう。
以下では具体的な調査及び検査内容に関して、特に指摘が多い事項をつづってゆく。
敷地・地盤
対象の土地・土台に加え、擁壁(ようへき)や堀の状態を目視中心に調査を行う。排水に問題がないか、ひび割れや表面の窪みなどの損傷状態を確認するのである。例えば、埋戻し土の上に芝張りや砂利敷きなどが施されている場合には、簡単に沈下状態を調査できるが、コンクリートなどの塗装で覆われていると、内部の沈下状態の調査は困難が予想される。この場合、ひび割れの部分には、足や打診棒で振動を与え、内部の空隙状態を推測するのである。
また建築基準法施行令により、敷地内の通り道が適法状態かをもチェックする。例えば、公共施設で避難経路上に自転車が置かれていないかなどを確認するのだ。有効幅員を確保し、その施設を利用する避難経路を把握しておく必要がある。この把握が、災害発生の際には最悪の事態を回避することにも繋がる。
建築物外部
礎や外壁の具合を目視及び打診棒を使用して、基礎や外壁にひび割れや沈下などがないかをチェックする。更に、屋外広告版や室外機の設置状態も確認し、事故に繋がらないようにするのである。特に上階にある外壁タイルや設置物が老朽化してしまうと、落下して大事故につながる恐れがあるため定期的な検査は必須である。
平成20年以降、建築基準法改正により赤外線措置法による調査も行われている。昨今ではドローンに赤外線カメラを搭載し、外壁の調査をする方法もある。ドローンによる調査は、コスト及び工期の削減を実現でき、しかも安全性をも担保できるとの期待が集まっている。
屋根・屋上
目視が中心であり、屋根部分や屋上に損傷がないかを(必要があれば打診棒などを用いて)調査する。手が届く範囲を打診、その他を目視で調べる。異常があれば、全面打診等によって調査を行う。パラペット(平らな屋根や屋上などに付いている外壁部)や、ドレン(排水管)を含む排水周辺も調査を実施する。
建築部内部
建築基準法に則り、建築部内部が目視と設計図書の両面から調査する事項が主となる。具体的には防火区画(火災の被害を抑える区切り)や壁・床・天井(特定の条件の規模や重量や高さを満たす特定天井なども含む)などの状態の調査をするのだ。
なお、2016年6月から施行された建築基準法により建築防火設備の防火扉や防火シャッターなどの定期検査・報告も防火設備定期検査という別の検査として義務化された。
避難施設
廊下や階段や出入口など火災時の非難に重要な点が建築基準法に適しているかを確認する。特に注意するべきは、建物の間仕切りの変更や内装のリフォームを行った場合には、非常用照明や防煙垂れ壁が必要な箇所に設置されていなかったりする可能性があるため、建物関係者は防煙区画の再形成の必要性を検討したり、定期調査をする者に事前に伝えておくと間違いを防ぎやすい。また、排煙設備や非常用照明の機能に問題がないかなども確認の対象である。
その他
その他の項目(煙突や免震装置など)は特殊な場合が多い。そのため特定建築物定期調査では調査対象外となる項目も多々あり、事前に構造内容をチェックしておく必要がある。
特定建築物の定期調査の意義
定期的に特定建築物の調査を行う目的は、建物を利用する多くの人の命や健康を守ることである。不慮の事故や思わぬ健康被害を避けるために点検は不可欠なのである。
なお、安全確保を担保するべく、特定建築物の定期調査の結果に関して建築基準法は第101条に罰則規定を設けている。報告をしなかったり、報告に虚偽がある場合、その者は100万円以下の罰金に処するとされている。
とはいえ、当該調査及び報告はネガティブな動機によるものだけでない。経年による建物の劣化や破損や腐食などの不備を発見し早めに対処することで、最終的なメンテナンスコストを減少させられるほか、建物の資産価値を維持しやすくなるといったベネフィットが生まれる。
まとめ
特定建築物の定期調査報告は建築基準法で定められた制度であり、該当する建築物の所有者・管理者は必ずやるべき仕事であることがお分かりいただけたのではないだろうか。一方、この調査報告を行うことで自分が所有又は管理する建物の状態を詳しく把握でき、資産価値の維持に繋げられる、愛着が増す、といった肯定的にとらえる向きもあろう。
まずはご自身が所有・管理している建物が、特定建築物かどうかチェックする所からはじめてみてはいかがだろうか。
参考文
「設備と管理」2021年10月号
https://www.ohmsha.co.jp/setukan/
「建築基準法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201