電気は、私たちの日常生活において必要不可欠なエネルギーであり、建築物のあらゆる場面に使用されている。ビルの管理・運用に欠かさせない電気エネルギーだが、一方で危険も潜んでいる。電気火災もそのひとつである。電気設備・製品を正しく使い異常などを早めに発見することで電気火災を防ぐことができる。
はじめに
現在では多方面で電気が使われ役立っているが、一方で電気や電気設備機器に関わる火災は毎年発生しており、全火災件数に対する割合は近年増加傾向にある。
大手企業の大規模ビル群が集中し、居住民が少ない東京都心・丸の内消防署管内で発生した火災原因の、実に過半数が電気火災だという。東京消防庁の統計では、2019年の全火災件数の31.4%(1,283件)が電気火災であり、損害額は40億円を超えている。
東京消防庁では、電気や電気製品にかかわる火災の原因について調査を実施することが電気に起因する火災の予防対策になるとされ、通報を敬遠しがちなほんの些細と思える電気火災でも、消防署への通報を奨励している。
電気火災とは
電気火災とは、火災のうち電気設備や電気機器を原因とするものを指す。
地震の揺れなどの影響で停電した後、電気が復旧することで発生する火災を通電火災という。通電とは、電流を通すことである。
大地震発生時に発生する電気火災は、地震の揺れにより可燃物と電気機器が接触して発生する火災と、通電火災の二種類に区別され、通電火災によって二次災害が多発する事例も珍しくない。
東京消防庁の例によると、令和3年(1~12月)における火災状況(確定値)では、総出火件数(建物火災、林野火災、車両火災、船舶火災などの種別がありその合計)は、35,222件で、一日あたり約96件発生している。
ここでは住宅を除く建物火災に注目する。その出火件数は19,549件、出火原因の1位は「こんろ」の2,617件(13.4%)、2位は「たばこ」の1,721件、(8.8%)だった。電気火災に含まれる、「電気機器」は1,413件(7.2%)で3位、4位が「配線器具」の1,187件(6.1%)、7位が「電灯電話等の配線」の985件(5.0%)となり、電気火災を合計すると3585件(18.3%)で、1位の「こんろ」を1000件弱(5%弱)も上回り、実質的な出火原因の1位は電気火災なのがわかる。
令和3年(1~12月)における火災の状況のうち、死者の発生した建物火災における火元出火原因ごとの死者数は以下の図の通りである。死者の発生した火災件数は、1,031件、人数は1,165人で、そのうち電気火災が90件、死者101人(8.7%)となり、ストーブに次いで4番目に多い。
電気火災の事例
(1)コンセント、差し込みプラグ等による火災
壁付コンセントに延長コードの差込みプラグや電気機器の電源プラグを差し込んだまま長年使用し続け、接触不良が発生すると、電気製品を使用時に発生する熱やコンセント内部の接続部の緩みによる熱が増大し出火する可能性がある。
(2)トラッキング現象による火災
トラッキング現象とは、コンセントに差し込んだプラグの両刃間に付着した綿ほこり等が、湿気を帯びて微小な放電の際などの火花を繰り返し、やがて差し刃間に電気回路が形成され出火する現象を言う。
トラッキング現象による火災は、隠れた部分で発生することから発見が遅れて思わぬ被害に繋がる事もある。
通電火災の事例]
地震の揺れやビルの倒潰で破損した電気機器に通電し、漏電やショート(電圧がかかっている2点間が直接接触するか、又は同時に別の導体に接触することをショートという)が生じて出る出火や、倒れた照明器具に通電して発熱し、近くの可燃物が出火した例がある。ガス漏れが発生しているビル内で通電して出火する事もある。
電気火災の対策
コンセントやプラグ、スイッチ等の接触状態が悪いと電気抵抗が増加し、過熱の原因となり、近くに燃えやすいものがあると着火する恐れがある。コンセントとプラグの接続に緩みやスイッチなどの接触が悪いと感じたら速やかに点検修理を行った方が良い。コンセントやプラグの焦げにも要注意である。
トラッキング現象による火災を防ぐため、差込みプラグは使用時以外はコンセントから抜く。長時間差したままのプラグ等は定期的に点検し、乾いた布等で清掃し、発熱等の異常がある場合は交換する。
特に、細かなほこりや湿気の多い環境で使われているプラグや、冷蔵庫やオフィス家具等の陰に隠れている配線には注意する。タコ足配線などのコンセントの増設もトラッキング現象の発生リスクを増加させることになるので注意したい。
平常時とは異なり、近年は大地震だけではなく、大型台風などに伴う防風雨によって起こりえる通電火災にも用心したい。総務省消防庁では次のような通電火災の発生防止策を呼びかけている。
ア.普段から電気器具の使用後はスイッチを必ず切ると共に、差込みプラグをコンセントから抜く習慣を身につける。
イ.地震後、避難の前にアンペアブレーカーを切り、電気に起因する火災の発生を防止する。
ウ.断線したり垂れ下ったりしている電線には絶対に触れない。
エ.一度水につかった屋外配線や電気機器は、漏電(電気機器・器具や電線の絶縁不良又は損傷により発生し、火災の原因になり得る)等の火災の原因となるので使用しない。
一般の住民はもちろん、ビル関係者には特に理解して欲しい内容である。
まとめ
電気設備・製品を使用する際の不適切な維持・管理や取扱いがないか、定期的にチェックし、火災に繋がらないよう安全な使用を心がけたい。防火管理者が率先し、電気火災予防のためのルールブック作成や注意書きを掲示するなどしても、電気火災による損害額から考えても割に合うだろう。
東京消防庁によると、近年火災の総発生件数は減少しているのにも関わらず電気火災の発生件数は増加傾向にある。これはオール電化を初めとする電気設備・製品の普及に伴うものであると考えられる。
電気火災の発生は、電気設備等の利用状況からでは専門知識がないと気づかない場面も多々ある。
この機会に電気火災を未然に防ぐべく電気設備等の安全な取り扱いの知識を深めると共に、進化を続ける電気設備・製品にあわせて常にアップデートしていく必要もある。
参考
設備と管理 2021年12月号
https://www.fujisan.co.jp/product/1497/b/2180680/
東京消防庁
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/camp/2021/202106/camp3.html#camp3-an00