近年私たちはドローンを活用した空撮映像をテレビ番組や動画などで見掛けることが増えてきた。
元は軍事目的で誕生したドローンだが、測量や農薬散布、インフラ点検(橋、ダム、道路・トンネル、送電線、鉄塔、河川管理施設(水門等)等の点検)など色々な場面に広がっている。さらにドローンの自動飛行化や機体開発などそのさらなる進化が期待される。
そこで今回は、活用の場が広がり続けているドローンによる外壁調査に注目する。
はじめに
令和4年4月に建築基準法施行規則の一部が改正された結果、半年~3年に一度の頻度で義務付けられた建築物の定期調査報告における外壁の調査方法のひとつとして、ドローンによる赤外線調査が明記された。さらに令和4年12月より国家資格として、ドローンの免許制がスタートした。
ドローンのパフォーマンスや技術向上に伴い、インフラ点検や物流の利活用への需要が高まっていることを受け、よりドローンのビジネス活用が盛んになるだろう。
気になるドローンの語源だが、由来は、英語「drone」という外来語で、無人航空機全般を「ドローン(オス蜂)」と呼ぶようになったのは、ドローンのプロペラが回って飛び立つ「ブーン」という音が、“蜂”が飛ぶ時の羽音に似ているというのが通説である。
建物調査におけるドローン
ドローンによる外壁調査の特筆すべき点は、その飛行方法にある。空からの風景などを撮る空撮や高速飛行、アクロバティック飛行などを競うドローンレースなどとは違い、外壁を調査する都合上、「あえて壁に向かってドローンを飛ばす」ことである。
外壁調査はビルの利用者や第三者(歩行者)の安全を確保するために必要な調査である。やるべき調査をしなければ建物の不健全箇所に気付くことができず、タイル剥落による事故やひび割れから雨水が躯体に流入し、鉄骨の腐食や漏水など重大な問題になりかねない。これらの問題は長期的な建物の維持コストの増加にとどまらず、人身傷害の責任問題ともなりかねないため建物所有者は、これらの事故を未然に防ぐ対策を講じた方が良い。
ドローンを取り巻く航空法も忘れてはならない。航空法とは1952年に定められた航空機の航行の安全及び飛行への障害を防止する目的で定められた日本の法律である。2015年、ドローンが首相官邸に落下した事件をきっかけに改正航空法が施行、航空法の適用範囲がドローンにまで広がった。
遠隔操作または自動操縦により飛行可能なもの「200g未満の重量(機体本体の重量とバッテリーの重量の合計)」のものを除くと定義されている。つまり、改正航空法の規制対象のものは、国土交通省の許可なく飛行させることは法律上禁止されている。
ドローンを飛ばす際にその他の規制も守る必要がある。
電波法例で定められている技術基準に適合し、2.4GHzの電波規格の技適マークがある機体かどうか、またプライバシーの観点から撮影の際、第三者の私生活上のことを他人に知られないように注意をはらわなければならない。
その他にも自治体の条例や道路交通法など、最低限のモラルを守り、規制を遵守しなければならない。
ドローンによる外壁調査
従来の外壁調査は、ロープを使用して壁面を下りながら目視で把握する目視調査、打診棒で壁面を叩く打音調査、足場やゴンドラを設置し目視調査と打音調査がある。この様な調査は多くのコストがかかり、期間も長く危険度が高い。
一方、ドローンによる調査方法は、ドローンに可視カメラと赤外線カメラを搭載し、飛行しながら外壁面を撮影していく。その撮影データを基に解析を行い、タイル剥落によるひび割れやタイルの浮きなどを検出する。可視カメラでの撮影データは目視調査に、赤外線カメラでの撮影データは打音調査に代えることが可能である。
劣化や環境変化や自然災害などで、すき間なく付着していた下地部とタイルや塗装部間が剥離していく。太陽光で剥離して空洞ができている部分に一時的に熱が溜まる。その性質を使い、赤外線カメラで撮影すると問題のある箇所が健全箇所よりも、放射熱が高温になるため赤く、もしくは、さらに高温の場合には白く検出されるのだ(図3参照)。
ドローンの活用で得られるメリット
同じ赤外線カメラによる調査でも、従来のドローンを使用しない据え置きカメラの設置による撮影のデメリットは、撮影角度が45°を超えると精度が下がることであった。これは例えば、都心部など建築物同士の距離が近い場合には建物と据え置きカメラとの距離がとれず撮影が難しい。距離を確保できる場合でも、外壁との距離が離れるほど放射熱を読み取る精度は落ちるので、高層部ほど十分な結果は出ない。建物により据え置きカメラでの調査を選んだ方が良い場合もある)。
つまり赤外線カメラの性能のせいではなく、撮影方法に問題がある。
ドローンを用いた赤外線調査の場合、高層部でも適した撮影角度と撮影距離を保ちつつ撮影できるため、このような課題をクリアすることが可能になった。
また、従来の外壁調査には、足場を組んだりゴンドラといった仮設設備を利用する方法もあり、これは設備の設置のみで数百万円かかり、それに加え設備を仮設する期間という時間的なコストもかかっていた。
ドローンを用いることにより、まず点検費用が削減でき、短時間調査が可能になる。更には、建築基準法第12条の定期調査に対応でき、点検結果の記録ができるなど、様々なメリットが得られる。
まとめ
外壁調査のため、あえて外壁に向かって飛ばすドローン。言うまでもなく、壁との衝突や周辺の障害物との衝突、また悪天候にはドローンを飛ばすことが出来ないなど、常にクリアすべき課題はある。しかし安全性を確保したうえで、ドローンを活用すれば、足場などを設営して行う既存の外壁調査と比べて、時間的・費用的コストの削減にもつながる。
今回は、建物調査におけるドローンらしさを記事にした。ドローンによる外壁調査が当たり前のように実施される将来もそう遠くはないといえるだろう。
参考
設備と管理 2021年8月号
https://www.ohmsha.co.jp/magazine/setukan202108h/
語源由来辞典
https://gogen-yurai.jp/drone/
ドローンフロンティア国土交通省 講習管理団体
https://www.drone-frontier.co.jp/infrared.html