建築 最終更新日: 2023年04月22日

輻射冷暖房システムが快適で経済的な理由

春・秋の気候は夏・冬と比較して、時間的にも空間的(屋内と屋外等)にも気温の差が少なく過ごしやすい。輻射熱は室内空間でも温度のムラを少なくすることができる。
真冬でも、優しい陽差しを浴びれば、ぽかぽかと身体が芯から温まる。この感覚は誰もが経験しているだろう。身も心もふわりと温まるあの感覚は太陽の輻射熱の効果である。
輻射冷暖房は、このように温度差が少なく、かつ穏やかに温めてくれる輻射熱を利用した、快適で省エネ効果の高い暖房システムである。そして輻射の効果は冷房時にも有効活用できる。

はじめに

輻射熱とは、電磁波が熱を伝える仕組みである。たとえそこに風が吹いていなかったとしても熱が届く。身近なものでは、太陽、電気ストーブ、こたつ、電子レンジなどである。
熱は原則、高い方から低い方へと移動する。体温より壁や屋根の温度の方が低い場合には、人体の熱が壁や屋根へ移動して身体が冷える。まさに冬の状態である。 
反対に猛暑日にトンネルへ入った際、涼しく感じるのは、人体の熱が温度の低い壁に放出されるからである。これらは冬と夏の出来事だが、熱が「人体→物」へ移動しているのは同じである。

図1 輻射熱のイメージ
https://lab.a-hikari.com/about-radiant-heat/

夏の暑い日、太陽からの輻射熱により熱せられた屋根や壁の熱が、相対的に温度の低い人体へ向けて放出される。今度は「物→人体」へ熱が移動している。
無風でも移動しかつ目にも見えない輻射熱だが、人間が快適に感じる環境はこの輻射熱を有効に活用することにより実現できる。
最近ではこの輻射熱を利用した冷暖房システムが、経済性・健康性において快適なビル環境をつくるうえで注目されている。

輻射冷暖房とは

そもそも輻射の由来は、物質が放射状にエネルギーを発する様が、牛車の輻(や、スポーク)が車輪の中心からタイヤに向かって拡がるイメージに似ていることによる。よって輻射熱は、輻射(放射)と併記されることが多いが、“輻射”熱と“放射”熱は同じ意味と解して良い。
輻射熱から生じる輻射温度を体感的に感じるのは困難で、無風状態でも人体を温めたり冷やしたりすることができる。輻射熱は熱が放射状に移動するので、輻射熱の発射地点から空間を無駄なく、偏りなく目的の温度に導くことが可能になる。

輻射冷暖房とは、天井、壁、床といった“面”を暖めたり冷やしたりして、室内の温度を効果的に調節することが可能な装置である。冷房時は人体の熱が、冷やされた壁等の面へ輻射熱として移動する。暖房時には、温められた壁等の面から拡がる輻射熱が人体へと移動する。

図3 室内で輻射(放射)熱が拡がる様子
https://cooldan.com/fukusha/

冷暖房設備はそもそも人工的に空間を冷やしたり暖めたりする機械である。生き物にとって心地よい温度を自然に作り出す状態と比べて弊害や功罪が少なからず出てしまう。
日本バウビオロギー研究会(バウビオロギーとは「健康や環境に配慮した建築について考える学問」の意)の資料によると、従来の対流暖房設備を運転する影響は以下である。

①室内空間で温度差が生じる
②空気や建材が、乾燥や含水といった湿度の影響を受ける
③空気の対流を起こすことで、塵埃が発生し循環する
④空気中のバクテリアやウィルスの拡散・活発化
⑤静電気が発生し、帯電する
⑥騒音と振動の発生

続いて上記研究会の資料が挙げている対流暖房設備が健康へ及ぼすデメリットを列挙する。

ア.疲労感、不快感、神経過敏が生じる可能性
イ.風邪をひく恐れ
ウ.睡眠障害を引き起こす恐れ
エ.リュウマチ、循環器障害を罹患する恐れ
オ.アレルギー症状が出る恐れ
カ.抵抗力低下、能率低下につながる恐れ

以上の恐れは対流冷房設備に関しても危惧される。
対して輻射暖房設備は気流が少なく温度差が生じにくい。そのため対流暖房設備の影響として前述した(①~⑥)に比べて下記の優位性が認められる。

①室内空間での温度差が小さい
②湿度が保てるため空気や建材が乾燥しにくい
③空気の対流がほとんどなく塵埃の発生・循環がほぼなくなる
④静電気の発生を抑制できる
⑤騒音と振動を低減できる

輻射冷暖房システムについて

ビル環境で主流のエアコンは、天井に設置されているものがほとんどで14℃程度の冷風、40℃以上の温風を強く出し、部屋の空気をかき混ぜる対流方式である。
一方、輻射冷房(暖房)システムは、冷房(暖房)時は冷水(温水)を配管に流し、この配管を内蔵したパネルなどを室内の天井、床、壁などに設置し、電磁波である輻射熱を直接的に、放射状に物質へ伝えることで部屋中の温度を快適にするシステムである。この輻射熱は人体に直接作用して体温を調整する。

輻射冷暖房システムの快適性

冷風や温風を吹き出す一般的な空調システムは、強い気流で起こるドラフト現象、位置によって温度差が大きくなる室内の熱の偏在といった問題がある。快適さの観点で見ると優れているとは言いがたい。
輻射冷暖房システムは、時に机上の用紙を飛ばす冷風・温風の影響を受けず、温度差も少ない。従来のエアコンに起こりがちな冷房時の足元の冷え、暖房時の頭部だけ暑くなる、冷風・温風が人体に直撃する、乾燥が気になる等の不快さもないので健康的といえる。

図4 輻射方式(「ecowinHYBRID」)と対流方式のサーモグラフィーの比較等
https://ecowin-life.jp/

輻射冷暖房システムの省エネルギー性

メリットしか見当たらない輻射冷暖房システムだが、普及はいま一つ進んでいない。理由の一つは対流冷暖房システムと比較して初期コストが高い点である。とは言え、沖縄県内の図書館(鉄筋コンクリート造・3階建て、建築面積:1409.6㎡、延床面積:3081.9㎡)の事例で対流方式(ビル用マルチエアコンのみ)と輻射方式(厳密には輻射式冷暖房装置と対流式エアコン併用型の「ecowinHYBRID」)のコストを比較したシミュレーションをみて頂きたい。ランニングコストの差額により、導入から約4年半で収益分岐点に達し、それ以降は輻射冷暖房システムの方が経済的であった。30年間の運用シミュレーションでは、対流方式が約2億5000万円、ecowinHYBRIDが約1億5000万円と、1億円弱もコストダウンができる試算が出た。

図5 護佐丸歴史資料図書館
https://www.vill.nakagusuku.okinawa.jp/detail.jsp?id=95547&menuid=16087&funcid=1

まとめ

経済的で健康へのメリットがとても大きい輻射冷暖房システム。今日では導入する施設も増えてきている。まずはお近くの施設で実体感してみてはいかがだろうか。

参考

設備と管理 2020年1月号
https://www.ohmsha.co.jp/magazine/setukan202001h/

日本バウビオロギー研究会
https://baubiologie.jp/