2020年12月22日、名古屋市内のホテル地下駐車場で二酸化炭素消火設備が誤作動し、作業員1名が死亡。名古屋市消防局は同系統の消火設備を有する防火対象物の緊急査察を実施。他地域での緊急点検の広がりや、法整備の動きに注目。
参考
日本経済新聞「名古屋のホテル駐車場で煙、作業員死亡 消防設備誤作動」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD223JH0S0A221C2000000
事故概要
名古屋市内のホテルの地下駐車場で煙が発生し、現場で作業していた男性1名が死亡した。煙の正体は誤作動した二酸化炭素消火設備の二酸化炭素であり、正式な発表はされていないが、男性の死因は二酸化炭素による窒息死であったと考えられる。事故当時、男性は地下駐車場内の車両用エレベーターの修理をしており、別の作業員が二酸化炭素消火設備の作動ボタンを誤って押下したとの情報がある。詳しい原因については警察と消防が調査中。
二酸化炭素消火設備とは
二酸化炭素消火設備とは、不活性ガス消火設備に属する非常用消火装置の一種である。一般的に設置されている場所として、駐車場をはじめ、自動車修理工場、ボイラー室及び発電室など、火災の恐れのある機械が設置されている場所が挙げられる。
二酸化炭素を消火に使うことのメリットは大きい。まず、使用場所の機械や金属に対し汚損や化学変化の影響を与えない。二酸化炭素は非常に安定した気体であることがその理由である。そのため、消火による損害を抑えることができる。水や一般的な粉末消火器ではこのようにはいかない。また、安定しているため経年による劣化が少なく、長期間の保存も容易である。さらに、ガスだから僅かな隙間にも届き、窒息と冷却作用により、効率的に消火する。二酸化炭素には絶縁性も備わっているため、正に機械火災に最適なのである。
一方デメリットとして、作動場所付近に人間がいた場合、酸欠による窒息の危険が甚だ大きい。今回の死亡事故は正にこれであろう。このような事故を防ぐため、作動前に警報が鳴る機構が備わっており、今回の事故も警報は流れたとの情報があるものの、結果として1名の貴重な人命を失ってしまった。
実は、同種事故はたびたび起きている。東京では平成5年と7年に死者を出す同種事故が起きており、二酸化炭素消火設備の性状を鑑みれば、使用方法を誤れば非常に危険な装置になりうる。
今後の動向
名古屋市は、今回の事故を受けて市内の特別査察を実施。特別査察は市内782の施設を対象に、来年1月22日まで実施される予定。
今回の事故を受けて、名古屋市以外の地域で不活性ガス消火設備を査察する状況になるのか。査察の動きが広がる場合は、同設備を設置している防火対象物の管理者は対応を求められることになるため、点検記録や管理状況がどうなっているのか、もう一度確認したほうが良いだろう。また、個人的に注目しているのは、今回の事故を受けて、法改正が行われるのかどうかという点である。すなわち、誤作動した場合にも、ガス噴出までに時間経過を設けることや、音響装置の規格を厳格化するのかといったことである。これまでの状況を見る限り、おそらくそこまでの動きにはならないと想定されるが、消防法の改正は、死亡事故が起きた後で基準を厳格化するのが通常の流れであるため、今後の動向については注視したい。