民泊 最終更新日: 2023年09月18日

民泊と消防法

民泊開業に際し、実は消防法の要請は強い。中でも新たに防火管理者を設置する必要が生まれると、予想していなかった維持管理コストが発生する点に注意。

民泊と消防法

民泊業を営むためにいくつかハードルがあるのはご想像のとおりである。日本の人口減とともに空き家が増えると言われ、日本政府が観光立国を目指している以上、民泊への注目度は高い。しかし、民泊業にはどのようなリスクがあるのか。今回はあまり語られない消防法の観点から、民泊について解説する。

まず、民泊と消防法を語る上で絶対に知っておかなければならないことがある。それは、基本的に建物の使いみちによってその規制の強度が変わるという消防法の基礎である。たとえば、まったく同じ作りのビルがあったとして、用途が病院なのか学校なのかで規制が変わる。病院と学校を比べれば、病院の方が災害に弱そうなイメージを浮かべられるだろう。実際そのとおりで、この場合病院のほうが消防法の要請は強くなり、学校には必要ない設備や点検が必要になる。これは民泊にあっても同じことが言える。要するに、民泊を始めようとすると消防設備の購入、工事及び講習の受講義務など、けっこうな量の準備が必要になる場合がある。民泊新法や戦略特区法などに目が行きがちだが、消防法には当然罰則規定もあるため、民泊を開業しようとする方は要注意である。

消防設備に関して言えば、一般に民泊をしようとした時に求められるものは、自動火災報知設備と誘導灯である。製品の購入に加え、誘導灯は電気工事士による設置工事を受けなければ設置できない。また、消防設備は無条件で半年に一回の点検と1〜3年に一度の点検報告を管轄消防署に提出しなければならない。しかし、民泊を始める物件によっては、より面倒な対策を講じる必要がうまれる。

消防法から見る民泊開業ハードルの高い物件

消防法から見て民泊開業のハードルが高い物件はいくつか考えられる。最もハードルが高いと考えられるのは、全体で30〜49人が住んでいるテナントなしマンションである。なぜハードルが高いかと言うと、今まで必要なかった防火管理者が必要になり、消防計画の作成や避難訓練を行う義務が発生するからである。しかもこの場合、防火管理者よりもワンランク上の統括防火管理者も必要となるため、そちらの対応もしなければならない。

なぜこのような事態が発生するのかと言うと、民泊の部屋が住宅ではなく宿泊施設扱いになり、消防法による防火管理の要請が強くなるためである。先に述べたとおり、消防法は建物の用途で防火管理の要請内容を変えている。そのため、居住者が使用するのみの住宅より、不特定の者が使用する宿泊所の方が火災リスクが高いと見なされ、要請も強まる仕組みだ。
居住者数が30〜49人のマンションだとこの仕組みに直撃する。それ以外の人数であれば、防火管理者の選任が必要ない、もしくは既にある程度の防火管理体制は整っているので、民泊の新規開業のハードルは低くなる。

テナントなしマンションという条件も同様の理由からによる。既に飲食店や物品販売店舗のテナントが入居していた場合、そもそも建物には不特定多数の人物が出入りする建物とみなされ、防火管理者が設置されている可能性が高い。民泊使用部分に防火管理者を設置することになっても、民泊を開業することによる建物全体への影響はそれほど大きくなくて済むのである。また、小さな建物、すなわち民泊部分やテナントも含め建物全体の収容人員(居住者数+テナントにいる従業員と客の数。消防法施行令で規定※)が29名に収まる場合、防火管理者は不要なので、消防法の要請は弱くなる。

もし上記条件で民泊を開業すると、消防法からの要請で、消防設備の設置コスト及び維持管理コストが発生することになる。維持管理コストには民泊以外のスペース全体の管理も含まれてくるため、共同住宅部分の居住者やオーナーとの調整が必須になる。民泊開業後に話が拗れれば、民泊経営を自分の裁量でコントロールできなくなる恐れもある。

もっとも、現実的には、マンションの利用規約や建築基準法により民泊営業が禁止されている場合は多い。とは言え、その条件をクリアしても、消防法の要請は強い、という話である。

(※)収容人員の算定要領(東京消防庁)
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/syuyo_santei.pdf

これから民泊を始めようとする人に

防火管理者が必要とされる要件は先に述べたとおりで、これに抜け道は存在しない。年間宿泊日数を制限しようと、どれだけ小さい部屋を用意しようと、まずは建物全体の収容人数が何名かで判断される。消防法の要請を弱めるならば、なるべく小さな建物で民泊経営をすることになるが、それでも消防設備の維持管理や防災の責任から免れるわけではないことには注意しなければならない。

日本において民泊は始まったばかりであり、法も完璧に整っているわけではない。最近は新型コロナウイルスの流行で観光業は苦しい状況にあるが、流行が落ち着いた後には民泊業も息を吹き返してくるだろう。それと同時に防火管理や消防設備の不備も増加すると考えられる。それによって何かしらの事故が起こり、法が整備されるというのが毎度の流れである。いざというときに責任を求められるのは管理側なので、その点についても充分に注意し、是非防災面での維持管理コストもしっかりと計算に入れて民泊運営を行っていただきたい。

参考

総務省消防庁「民泊における消防法令上の取り扱い等」
https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/suisin/post20.html