建物管理 最終更新日: 2023年09月18日

統括防火管理者とは

統括防火管理者は複数の防火管理体制を取りまとめ役を担う責任の重い役職である。設置要件は基本的に複数の防火管理者が存在している建物であり、防火管理者と同じく消防計画の届出義務も存在している。過去には不適切な業務を行ったとして逮捕者も出ているため法に基づいた適切な業務執行が必要である。

統括防火管理者とは

統括防火管理者とは、建物「全体」の防火管理を司る責任者のことで、防火管理者とは似て非なるものだ。「全体」と強調するのは、統括防火管理者は基本的に、建物内に複数いる防火管理者それぞれを取りまとめ、建物「全体」を対象として防火管理を担う存在だからである。これが頭に統括が付く理由である。統括防火管理者は防火管理者を束ねるリーダーだと考えていただければわかりやすいと思う。

なぜこのような者が必要かと言うと、一つの建物内で防火管理者がそれぞれ独自の考えを持ち別々の行動を取ったら、防火管理の役割分担と責任の所在が不明瞭になるからである。たとえば、平成20年の大阪市個室ビデオ店火災では死者15名、平成21年の東京都高円寺南雑居ビル火災では死者4名を出すなど、大きな火災が過去にあった。これらの火災はいずれも雑居ビルでテナントごとで防火管理者が設置されていたが、共有部分の消防設備が設置されていないなど不十分な防火管理体制であり、そのせいで被害は拡大した。それまでも統括防火管理者の制度自体は存在していたが、これらの事故を受けて、より実効性を持つ防火管理体制を作るべく、制度を強化したという背景がある。なお、高円寺の火災では業務上過失致死容疑で統括防火管理者を含む3名が逮捕されている。

防火管理者が必要となる建物とは

統括防火管理者の業務は、具体的な業務として「全体についての消防計画」を作り、各防火管理者を統括し、適切な指示を出すことである。また、廊下や階段など共用している部分の防火管理を司る役割も持つ。

具体的に統括防火管理者を設置しなければならない建物は消防法第8条の2により規定されている。条件については以下のとおりである。

  • 高層建築物(高さ31mを超える建築物)
  • 避難困難施設が入っている防火対象物のうち地階を除く階数が3以上で、かつ収容人員が10人以上のもの
  • 特定用途の防火対象物のうち、地階を除く階数が3以上で、かつ収容人員が30人以上のもの(避難困難施設を除く)
  • 非特定用途の複合用途の防火対象物のうち、地階を除く階数が5以上で、かつ収容人員が50人以上のもの
  • 地下街のうち消防長又は消防署長が指定するもの
  • 準地下街

これらの建物のうち、管理の権原がわかれているもの(テナントやマンションなど、居住者や店舗が建物内に複数存在していること)が対象となる。

なお、これらの規定に当てはまれば、防火管理者が不要でも統括防火管理者は必要という状況も起こりうる。たとえば、高さ32mのテナントなしマンションに49人が住んでいた場合が正にこれに該当する(防火管理者の設置要件等については、コンテンツ「防火管理者に選ばれたら」で解説しているのでそちらを参照していただきたい)。防火管理者の取りまとめ役である統括防火管理者なのに、防火管理者が不在というのは妙な気がするが、これはマンションの居住空間毎に防火管理が分かれているという解釈からくるものであり、おかしな話ではない。このように、統括防火管理者は基本的に建物内に複数の防火管理体制がある場合それを統括する存在として設置されるが、建物の規模が大きくなれば必要になる場合がある点には注意されたい。

最後に

先の例にも述べたが、統括防火管理者はその業務を適切に行わなければ罰則を受ける立場にある。テナントによっては殆ど名前だけの防火管理者がいる場合があり、それらを正しく是正しなければならないのも統括防火管理者の仕事だ。業務を適切に遂行するには正しい防火管理の知識が必要になるため、わからないことがあれば積極的に管轄の消防署に問い合わせることをおすすめする。また、統括防火管理者は防火管理者と同じく条件によっては外部委託が認められているため、もし業務の執行が困難だと感じれば、当方のような防火管理の委託を担う業者に問い合わせるのも一つの手だろう。

参考

消防法研究会編著『消防法の実務 テーマ別ユニット解説単元』東京法令出版、2013。